ひとしきり絶叫をあげ、鎧を脱ごうと色々試行錯誤を繰り返した結果、彼はいくつかの重要な事実を発見した
一つ 自力で装備を脱ぐことはできない。これは手に握った武器なども同様であるが、手放さそうと言う意思さを持って放せば武器は手放すことができた
二つ 自分の手から離れた武器はゆっくり数えて5秒で消えてなくなる
三つ 自分の装備や所持品を管理するための「コンソール」のようなものが頭の中にある(手から離れて消えた武器はこのコンソール内に保管されるようで、選択することで再び使用可能になる)
特に彼が驚いたのはこの三つ目で、どんなに頑張っても装備が脱げないことに絶望して泣きそうになっていた彼の脳内に「メッセージ」と思われるものが流れたのである
上記のような内容が流れてきた時、彼は非常に困惑した。と、言うのはこれまで脳内に浮かんだものは彼に向けたものではあっても、それは所謂アイテム名などを浮かび上がらせただけの機械的なもので、今回のように明確に自分に向けた誰かからのメッセージ、と言うのは初めてのことだったわけである。それは困惑して当然と言えるだろう
とにかく、初めてもらえたメッセージの意図を理解しようと頭を捻ったことは、知らず知らずのうちに彼の心を落ち着ける一助となった
しかし心の平穏をどうにか保つことができたとはいえ、はっきり言って開くことが重要と言われても、何をひらけば良いのか全くわからない状態で、彼はなにか突然きさせられた鎧や武器などに開く箇所があるのかと色々探したり、どこかに秘密の隠し扉があるのかと水路の中を探し回ったり、とにかくいろいろなことを試す
しかしそのすべての行為は徒労に終わり、疲れ果てて壁に体を預けるようにしてへたり込んだ彼は、この世界がまるでゲームのような不可思議で理不尽な世界だな、などと半ば自棄気味に考えると、よく小説などである展開通りに自分のステータスやプロフィール、アイテムの一覧が見れたりしないかな、と考える
刹那、自分の脳内に本当にコンソールが現れ、それを理解した彼は驚愕に飛び跳ねる。まさか本当に現れるなどとはつゆほども考えていなかったわけなのだからこの反応は当然と言えるだろう
そのまま彼は恐る恐ると言った様子でコンソールの操作を開始する。まず表示されたのはゲームでよくあるキャラクターの全身像が片側に表示され、もう片側に詳しいステータスが記されたオーソドックスなもので、次のページには彼自身が装備している武器や防具に、現在は空欄のままになっている装飾品なども掲載された装備スロットの一覧ページがある
そこから更にスクロールすると装備やアイテムなどがその分類ごとにページ分けされており、各アイテムはその外見が名前とセットで表示されているため、とても視覚的にわかりやすくなっていた
それらを一通り見た後、彼は自分が装備している武器や防具を確認しようとスクロールする。装備スロットにはあの白いモヤを触れた結果、脳内に浮かんだものが全てスロットに配置されていた
彼は直感的に思う、今の自分にこの装備たちは明らかに重すぎると感じた。と言うのもステータスで見た時の自分の限界重量は18程度、これは騎士の鎧の重量25すらも耐えれないことを示していた
そこで彼はコンソールを操作してスロットから鎧を全て外す。すると先ほどまで感じていた重圧が消え去り、視界も完全に開ける。それに驚きながらも視線を下に向ければ、そこにはジャージ姿の自分がいた
突然自分の身に起こった変身が制御できるものであることが判明したことに彼は安堵の息を吐きだす。そしてそのまま胸に当てた手が持つこの無骨な剣へと意識が向けられる
現代日本に生きていて、まず使うことのない武器を握っていることに、多少なりとも興奮を覚えている彼は、立ち上がると慣らしをするために水路の真ん中まで移動する
ゆっくりと深呼吸をしてから、意を決して左足を前に踏み込み、右手の下に潜り込ませるようにして構えたブロードソードを、眼前にいる想像上の敵に向けて横長に振るう
あまりにも滑らかに振るわれた剣先は見事に目の前にある亡者の腹を切り開く。続けてブロードソードを振り上げるのと同時に右足を踏み出し、そのまま亡者の脳天に振り上げた剣を叩きこむ
そうして亡者を倒したところで一度体勢を整えようとステップで背後に移動する
終わってみれば、とても素人が初めてやってみたい我流の闘い方にしては、あまりにも綺麗で、澱みのない所作のもとに行われた一連の行為に、彼自身かわ驚きと少しの戸惑いの中にあった
その時、彼の脳内にまたメッセージが浮かび上がる
その言葉に、彼は自然と強くブロードソードのグリップを握りしめる。何もかもがわからず。今も新たな疑問が生まれたこのあまりにも意味不明な世界で、それでも、自分に向けられた温かな言葉に、彼は勇気を分けてもらえた気がしたのだ
そこから彼は意を決して再び通路に向かって歩き出し、その入り口に立つ
気づいた亡者が再び矢をつがえて彼へと構える。目の前に形となって存在する死に対する恐怖に対し、揺らぐ心を落ち着けようと彼は一度深く深呼吸を行い、覚悟を決め直す
彼が駆け出し、亡者が矢を放つ。彼は素早く右手の盾を構え、角度をつけることで飛来した矢を受け流す
距離をぐんぐん詰める彼に対し、不利を悟った亡者は逃走を選択。背を向けて一目散に通路の奥へと駆け出す
させるか、そう吠えながら彼は迷いなくブロードソードを大きく振りかぶると、それを亡者の背に向けて投擲する。空中で回転しながら直進するブロードソードは、狙った場所から多少はズレたものの、正確に背中に命中した
剣先がすっぽり隠れるほどに突き刺さったブロードソードの衝撃に、一瞬浮かび上がった亡者の体が、そのままのけ反るように地面に落下する
好気を逃さず距離を詰め切ると、亡者の腰を踏み締め体を押さえつけつつブロードソードを引き抜き、逆手に持ち直したそれを、掲げるように持ち上げ、体重をかけながら背中についた傷へと差し込む
確かな感触と手応えを持って、亡者の体を剣身が貫通する。亡者は悲鳴をあげながら助けを求めるように手を伸ばし、それに対して彼は雄叫びを上げてブロードソードを引き抜くと、さらに大きな声で叫びながら、その剣先を亡者の首裏に差し込んだ
亡者の体が大きく跳ね、口から黒ずんだ血液を撒き散らしながら数秒もがいた後に動かなくなる
確かに亡者を殺した。変わり果てたものとはいえ、人を殺したのだと言う事実に戦慄を覚えながらも、どこか冷静にそれを受け止めている自分がいることに困惑しながら、彼は自分の体に何かが満たされていく感覚を覚えながら、自然と荒くなっていた呼吸を落ち着けようと、亡者の死体の上で必死に息を吐くのだった