現代ファンタジーに勝利の女神を!   作:ぬくぬく布団

7 / 10
色々と落ち着いて余裕が出来ました。

そして、今回のイベストの内容が壮絶で予想を大きく上回っていました。
貯蓄していた300連の石は全部溶け、ナユタだけが限界突破も出来ていない。
ふぅ……、しょうがねぇ。後々手に入る高級チケットで手に入らなかったら諦める。




こんなゲームの話はさて置き、誤字報告や感想誠にありがとうございます。
ちゃんと読んでますが、執筆と構想等に力を入れているので感想の返信が出来ません。←今更感
たった7話の投稿だけでこんなに沢山の応援を頂き作者のテンションはアゲアゲで行きます!






第7話

二人の配信の後、夕方にも拘わらず職員が大急ぎで走り回っていた。

 

「早急に倉庫を開けろ!二人が帰ってくるのは恐らく夜中だから……関係の無い探索者達は追い出せ!野次馬は要らん!」

 

「ギルド長、人が足りません!」

 

「緊急連絡で職員を集めろ!!それとありったけの空の容器を運べ!未確認の魔物は全てが研究の対象だ!」

 

「ひぃぃぃ~~~~残業したくないですぅ」

 

「金はいつもより払ってやるから我慢しろ!!」

 

「パワハラ上司ィィーーー!」

 

「おい、本郷。解体に必要な物は全て用意したぞ」

 

「助かるぜおやっさん!他の者も急げ!」

 

本郷が檄を飛ばし、緊急招集された職員達もやって来てギルド総出で迎えに必要であろう物の準備を進める。

 

(本当に何なんだあの二人は!?ステータスや動きを見た限り普通ではないと予想はしていたがあまりにも異常過ぎる!どんな修羅場を経験したらあんな判断を下せるんだ!?)

 

前世で常日頃弾丸やミサイルやビーム等が飛び交う地獄とは言えなかったので、そこら辺ははぐらかして伝えていたのがある意味で仇となっていた。そうこうしていると、普段は買い取った素材を置く倉庫が空き、数時間した後に二人が帰って来た。

職員達はやり切ったと同時に襲い来る激務に再び直面する事実にげんなりしつつも、初めての魔物を間近で見る事が出来る幸運に喜びも感じたりしているのは内緒の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ドロシーside~

 

二人がギルドに帰還すると、大勢の職員達のお出迎え―――と言うよりも、慌ただしい動きをしているというのが本当だ。まるで何かに襲撃されているかの様な張り詰めた空気に何事だろうと首を傾げる。

 

「戻って来たか……おい、何で揃って首を傾げているんだ。未発見の魔物とそのボス個体なんだぞ?」

 

「いえ……あまり強いと感じなかったのでこれ程まで忙しい対処になるとは思わなかっただけです」

 

「ギルドってブラック企業なのか?朝見なかった職員さんが大勢いるんだけど……」

 

「あんな個体滅多に居ないし狩れないんだよ!?しかも未発見なら素材の価値も分からねぇから劣化しない内に解体しないと素材が痛むんだよ!何もかもが研究対象になりうるからこんな事になってんだ!!」

 

何処の世界でも変わりませんね。未発見のラプチャーに対する研究による弱点等の洗い出し等々忙しそうにしていた研究者の方達もああでした。

 

ドロシーは昔を思い出しながらも彼等の慌てて準備している姿に微笑む。

 

「倉庫があるからそこで解体等を進めるのでこっちに来てくれ。買い取り料金については後日という事になる」

 

「あ、肉は食べるから全部こっちだぞ?」

 

「なんだよもぉおおおおおおおおおおおお!どんだけ食うつもりなんだよぉオオオオオオオオオ!!」

 

「肉以外は売るから良いじゃねぇか」

 

「……あれだけの量、食べ切れませんよ?」

 

「近所に配れば良いじゃん?」

 

「お年寄りが多いのですよ?量は食べれないでしょう」

 

「ん~……んじゃあ200キロ回収で」

 

「それでも多いと思うのですが……」

 

「冷凍する!」

 

「そう言えば冷凍庫に何も入っていませんでしたね」

 

職員達は心の中で"食べるのかよ!?"とツッコミを入れつつ平静さを装ってテキパキと動いていく。

本郷に案内された倉庫は広いのだが、四隅にぎっちぎちに詰め込まれた棚が数多くある。恐らく素材が入った籠を入れているのだろうが隙間が無い程詰め込まれている。

 

「ギルドって素材をあんな風にぎっちぎちに詰めるのか?」

 

「お馬鹿、私達が倒した魔物を解体するスペースを確保する為に棚を移動させて詰め込んだだけでしょう」

 

「普通ならそんな雑に詰めねぇよ。今回は特例だよ特例」

 

「何だろう…こんな事が何回も繰り返される予感がする」

 

「遊星の直感は今まで外れた事がありませんので注意して下さい」

 

「……え?」

 

「このブルーシートの上に出したんでいいか?」

 

「えっ、ア……あぁ、そうしてくれ」

 

マジックバッグから角を掴んで頭を出し、職員にバッグを引っ張って貰う様に指示を出して全貌が明らかになったそれはギルドに居る職員全員の頬を引き攣らせた。

 

「ドローン越しよりも大きく見えるなぁ~。やっぱりバケモンだわ」

 

「本郷、邪魔だからどけ」

 

「あぁ、頼むぜおやっさん」

 

「テメェ等とっとと準備しろ!ボーっと突っ立てないで作業に取り掛かれ!!」

 

銀上の激により職員達が動き出す。解体する人達が持つナイフは様々あり、特に銀上が持つナイフに関しては素人目から見ても業物と言っても良いだろう。

 

「それで?どの部位がどれだけ欲しいんだ?」

 

「モモと胸と舌で200キロ位?」

 

「こっちで雑に分けるがそれでも良いか?」

 

「お任せする」

 

「了解だ」

 

巨体にも拘らず、迷いなくナイフを滑らせて皮を剝ぎ内臓を取り出そうとした。しかし、ここで違和感。なんと血が溢れていないのだ。熟練だからというのは関係なく、魔物の血が全て抜き取られているかの様だ。

 

「ん~?おい兄ちゃん、この魔物を倒した時に血は出てたか?」

 

「出てたぞ?」

 

「って事はダンジョンが血抜きをしたっていう事か?…そうなら辻褄は合うな」

 

「おやっさん、一応それについても報告書に記載する。仮説でも良いから気になった点を幾つか知らせてくれたら助かる」

 

内臓を取り出す為に切り開いた部分に支えの丸太を入れて内部に入り主要部分を切り分けていく。まるで人体模型の様に取り出される内臓達はどれもが綺麗に血抜きされている状態で汚れが全くついてもいない。テキパキと必要部位を切り分け、ブルーシートの上に乗せる。

 

「これでおよそ200キロだ。舌に関しては自分で切ってくれ」

 

「助かる。あ、本郷のマジックバッグを借りて家に帰るからそのつもりで」

 

「……いや、それは良いんだが後で絶対に返してくれよ?」

 

「借りパクするわけじゃないって。自分専用のマジックバッグを手に入れるまでの台車代わりだ」

 

「台車代わり……」

 

本郷は自分のマジックバッグが台車扱いされた事に気落ちしていたが、そんな事を気にせずお肉を入れた。

 

「それじゃあ今日は帰るわ」

 

「後日、良い値を付けて下さいね?」

 

嵐の目が帰った事でギルド内部はドッと疲れたが、台風の余波という名の解体作業が残っている。

一方、当の台風の目である二人は真っ直ぐ帰宅した。

 

「いや~、大量大量!今日はもう遅いから明日にでも配ろうか」

 

「そうですね。日も落ちているので冷凍庫の中に入れましょう」

 

テーブルの上に置いたまな板の上にモモ肉とムネ肉を置き、近所に配る分を切ってラップで包む。手作業ではあるが、二人なので作業分担出来た為左程時間もかからずに切り分ける事が出来た。残る部位は舌だが、こちらは自分達で楽しむ事にする。一応食べてから食感等を判断してからでも遅くはないだろう。

 

「と、いう訳で―――食べ比べをするぞ!前世で一応ジビエは食べた事があったが、食料ダンジョンの魔物かつ歴戦魔物?となれば味は違うだろ」

 

「久しぶりのお肉ですね。遊星が技術者と協力して製作したナノマシンの人工生成肉ばかりでしたが、極偶に食べる事が出来る天然のお肉より味が良い事に期待しましょう」

 

味の比較をするのであればただ単に焼いて少量の塩と胡椒で味付けしただけで良いだろう。黒胡椒―――、沢山動いたのでお肉の量は多めに。食料ダンジョンでドロップした肉だが、安全面を考慮してしっかりと火を入れている。

 

魔物とはいえ鹿…懐かしいですね。

 

ドロシーはお肉を焼いている遊星の後姿を見ながら思い耽る。

ラプチャーが現れなければ多くの人は今の様に食に溢れる生活を送れていたのではないか―――。

技術革新が起こらず停滞し、戦争が起きたのではないか―――。

様々な事が思い浮かぶが、それは前世でありもう向こうに未練は有る。クイーン撃破後の残存ラプチャーの殲滅後、エデンに何も残す事なく去った事。地上奪還の立役者の指揮官や彼に従うニケ達。そして、最後には一緒に戦い殲滅戦で別れたラプンツェル、スノーホワイト、紅蓮の三人にまともな別れの挨拶すら出来ずに死んでしまった事の後悔。

 

「ドロシー、大丈夫か?」

 

「…え、えぇ。大丈夫です」

 

「嘘吐きだなぁ。後悔があるんだろ?」

 

やっぱり、何処かふざけているにも拘らず的確に突いて来る。

 

「……そうですね。いくつかやり残した事もありますが、殆どは私が居なくとも大丈夫ですのでそれ等については後悔はありません。ですが、スノーホワイトとラプンツェルと紅蓮……生き残った皆にお別れを言えずに死んでしまった事が唯一の後悔です」

 

「そうか。まぁ、そこら辺についてはスキルの成長で何とかなるだろ。ゴッデスって記載されているって事はほぼ確定だろうしな」

 

私の罪―――。

人間……私達を裏切ったアークの上層部達から私達の為の楽園を奪い返そうと色々な事をした。それが礎となった皆の想いを破り捨てる行為だとしても、赦す事は出来なかった。彼等の功績を我が物として奪い―――、掲げ―――、偉業を捏造して罪人へと仕立て上げて口封じの為に殺した。私達だけを切り捨てるだけならばこれ程の復讐心を抱かせる事もなかっただろう。しかし、結局は明日を掴もうとする彼等に阻止された……いいえ、これ以上私の手を今以上に汚す事を防いだと言い換えましょう。

過去を―――、今を――――、どれかを望む者は明日を掴もうとする輝きには勝てない。新たな道を、生き方を模索して手を伸ばし続ける事……物凄く単純な想いを忘れていた……いいえ、思い出そうともしなかったというべきでしょう。皆がゴッデスに居た時は前へ前へと突き進み、明日を掴もうとしていた。ゴッデス時代の武力、相手を理解し合おうとした対話、どれも明日を掴まんとする想い。

計画を阻止する武力と説得による対話、私が捨てる事を選んだ選択肢を彼等は諦めずに捨てなかった事で掴んだ明日。もし、私が最後まで捨てる選択を選ばなかったのならどうなっていたのでしょう。しかし、もう終わった過去―――。今は二人だけでも、明日を掴む為に生きます。だって、それが間違いではなかったと目の前で証明されたのですから。

 

ステーキをゆっくりと食べながらより良い明日を迎える為にこれからどの様にしてダンジョンを安全に攻略していくかを思案する。安定した収入を確保するなら未調査である三階層以降の攻略が必要となるだろうが、現状でそれは難しい。

ダンジョンでの戦闘に関しては三階層までなら問題は無いだろう。しかし、安全地帯で野営する事を考えると携帯食料や最低限の寝具や道具が必要となり、最低でも遮光テントは欲しいところである。常に明るい場所だからこそ体調管理を怠らない事が必須。

 

はぁ…、ダンジョンで数日の滞在が必要となれば慣れが必要ですね。広大なエリアに四方の奥に安全地帯、常に明るく魔物が比較的弱い。私なら大丈夫だと思いますが、遊星の身体はそうではない……。食料ダンジョンを攻略するという長期の計画とギルドによる援助、これから見に来るであろう視聴者からの魔物の情報や私達では思い付かない様なエリアの特徴を示唆―――。これらを考えると遊星のゴッデスのレベル上昇を優先として二階層までに一人か二人は増えて欲しい。回復や防御のラプンツェル、遊星の負担を軽減する為の近接戦の紅蓮の二人でしょう。

 

だが、遊星のゴッデスのレベル上昇によって召喚出来るメンバーは分からない。ランダムの可能性が濃厚なので文句は言えないけれど配置を少し変える程度で済むので特に問題は無い。

 

「うーん……レベルが6か。あの大きい鹿が経験値を沢山持っていたのか?」

 

「あら。たったあれだけで3も上昇なのですか?それなら探し出して倒すのも計画の内に入れます?」

 

「いいや、次は第一階層の探索していない三方向を駆け足で調査する。一日で半分近くを調査出来るから…二日もあれば完走出来るし調査報告の報酬を貰える。あの鹿がどれだけの値段になるか分からないが、査定には長くて一週間位だろうな」

 

ただでさえ未発見の巨大な魔物で全体が残る特殊なドロップだ。早急な調査は当たり前だが、しっかりと調べなければならないので時間を要する。その間にそこそこ実入りの良い資金が欲しいので調査報告の第一弾である第一階層を完全攻略すれば、ギルドが募集をしている食料ダンジョンの最低限の調査報酬が丸々手に入るのだ。

一人三十万近くかつ、調査人数が十人程を要するこの破格の報酬の調査―――報酬額が半分以上割安という事を考えると、それはもうギルドからすれば土下座してでも頼みたい案件だろう。

 

「一人約三十万の報酬ですか……。確かに私達二人の駆け足なら二日で全体を調査出来ますね」

 

「常人では出せない速度で移動出来るからな」

 

「当時は本当に驚きました。人間の貴方がフェアリーテイルモデルの私達と同等の速度を出していたのですから」

 

「頑丈な身体があればこそ出来る芸当だがそこに至るまでの過程はもの凄く辛いがな」

 

本当にどれだけ努力したのですか…。今は維持に努めている程度かもしれませんが、これからは無茶な訓練はさせませんよ?

 

考えつつもステーキを食べ終えた二人は大変満足している様子だ。そんな中、遊星がふと思いついたのかドロシーにある質問をする。

 

「……俺ばかり気にしていたけど、ドロシーって自分のスキルを見れるのか?」

 

「私ですか?召喚されたモンスターのステータスは召喚主が見れるのではないのですか?」

 

「見れないから聞いてみたんだよ。もし、ドロシーにスキルがあれば色々と出来る幅が増えるかな?…と」

 

「分かりました。ステータスオープン?」

 

ドロシーの言葉に反応して目の前に透明なウィンドウが表示される。

 

 

 

名前:ドロシー

 

レベル:8

 

体力:3500

攻撃:3100

防御:2500

速度:2200

魔力:340

 

スキル:水魔法

 

 

 

召喚されたモンスターは召喚主よりも強い事は周知されてはいたが、これに関しては酷いの一言に尽きるだろう。只でさえ遊星のステータスは常人よりも高いのに、ドロシーは速度以外が遊星よりも高い。それに加えてスキルで水魔法というファンタジーで定番の魔法が使えるというのだ。

 

「……泣いていい?」

 

「貴方にはユニークスキルがあるでしょう?それにしても水魔法……」

 

「飲み水はドロシーに頼めば万事解決って事か。しかし、この数値の魔力ってどの位の事が出来るんだ?」

 

「……どうやって出すのですか?」

 

「………詠唱とか魔法名とか?」

 

「例えばどの様な?」

 

「ウォーターボールとか?―――言葉の通り水球な筈」

 

ドロシーは遊星をジト目で睨み、指先に小さな水球を思い浮かべる。すると、苦も無く指先に水球が出現した。

 

「……詠唱も魔法名も必要ありませんでしたが?」

 

「ま、まぁ取り敢えず成功という事で飲めるか確認しよう!!」

 

話を逸らしましたね?まぁ良いでしょう。問題はこの水が飲めるかどうかですが、試飲してみましょう。

 

ドロシーは指先の水球を口の中に入れて確認する。それは紛れもなく水であり、飲み水として活用出来る事を確信。次はお茶を飲み終えたコップの上に掌をかざし、蛇口から水が出るイメージで魔法を使うとイメージ通りに水が出てコップに満々と注ぐ事が出来た。

 

「コップ一杯程度では疲労感はありません。ですが、限界を知りたいので浴槽に溜めても良いですか?」

 

「その前にこのコップの水飲んでみても良いか?」

 

「ええ大丈夫ですよ。私が試飲した感じでは問題なく飲み水として活用出来ると判断しました」

 

「了解」

 

遊星はコップの水を飲み干し、浴槽を掃除してから栓をしてドロシーに場所を譲る。ドロシーは浴槽に水を溜める為に先程の蛇口から水が出るイメージではなく、滝の様に大量の水が出るイメージで浴槽に水を溜める。しかし、浴槽が満々になる手前で水が途切れ、前触れなく体から力が抜けて倒れる寸前で遊星が身体を支える。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「……えぇ、大丈夫です。身体に異常はありませんが、しばらくは動けない状態だと思います」

 

「魔力切れっていうのか?ちょっと体を触るぞ」

 

遊星はドロシーを抱えて椅子に座らせて真剣な表情で腕や足を触って異常が無いかを確認し、体の筋繊維の状態を触診する。本来は医師がする行為なのだろうが、そこは前世で培った実践経験なので知識は狭いが確実な事は分かる。

 

「筋肉痛系の筋繊維の崩壊や疲労とかではなく、通常よりも柔らかい。……気絶や失神による脱力系の状態に似ているな。俺が触っている感覚はあるか?」

 

「あります。ですが、先程も言った通り力が全く入りません。これではお風呂に入れないでしょうね」

 

「…腕も持ち上げられないか?」

 

「……無理ですね。もうしばらくこの椅子に座っています」

 

「なら風呂は危ないから出来てもシャワーだな。今は無理せずにゆっくりしてくれ。何か飲み物が欲しかったりするか?」

 

「いいえ、今の所は要りません。必要になったら声を掛けます」

 

「それじゃあ俺は手早く食器を洗って傍に居る様にする」

 

遊星は早足で台所に戻り食器を纏めて流しで洗う音が聞こえる。

 

…油断しました。まさか魔法を限界まで使うとこの様に体が使い物にならなくなるのは想定外―――。これが人間でいう所の身体に力が入らないという状態なのですね。介抱されてしまうとは、はぁ…色々と不便です……ね…。

 

ドロシーはここで違和感を覚えた。そもそも自身はニケ―――。疲れはするものの、失神や気絶による脱力等は起こす事は殆どない。更には介抱という事実―――。

 

待ってください…本当に待ってください。遊星は私を抱えて移動しましたし、この椅子は通常の椅子と変わらない。いえ、人間が使う事を前提とした椅子です。しかもこの様に背もたれを調整出来る物となれば……。

 

ドロシーは直ぐにでも確認したい事があったが、今はそれが出来ない。

 

…少し落ち着きましょう。ニケの体重は重く、スペアボディの様な軽い物でもない限り人間が抱える事はありえない事です。ましてや私の身体はフェアリーテイルモデル……、一般のニケよりも重く頑丈。遊星なら抱える事も可能でしょうが、人間が使う前提で作れらたこの椅子では椅子が壊れる筈……。

 

ドロシーが色々と考えている内に、遊星が洗い物を終えてドロシーの隣に椅子を持ってきて座った。

 

「……百面相みたいな複雑な顔しているが何かあったか?」

 

この能天気ッ……いえ、遊星はそもそも私達を抱える事が出来ていました。なら、少しばかり違和感を感じている程度の筈です。

 

「遊星にとても重要な事を尋ねますが良いですか?」

 

「えっ、何か変な事でもあったか?」

 

「……その……、私の身体についてです。重くはありませんでしたか?」

 

「重くなかったけ…ど……。あぁ、そういう事か。確かに何か軽いなとは思ってたけどニケって軽量化はされていなかったのか」

 

ようやく気付きましたね。というより、遊星は自分が死んでから更に技術革新で軽量かつ頑丈なボディが作られていると思っていたのですね。まぁ、確かに貴方が死んでから100年以上は経過していると伝えたからと予想していたのでしょう。

 

「後で体重計に乗せて頂けませんか?本来ならこの椅子が壊れても不思議でない重量なのですよ?」

 

「やっべぇ……それに関しては気にしてなかったから今気づけて良かった」

 

「私も自身の事なので色々と調べ直さなければいけない事もありますから」

 

その後、ドロシーは一時間程で立てるまでは回復して体重計に乗った。勿論遊星は見ていないが、ドロシーは平均体重よりも少し重い程度だった。まぁ、何処がとは敢えて言わないが大きいので当たり前である。

 

それにしても私も今更気付きましたが、ニケの性能がそのままであるのにも拘らず通常の人間と遜色のない体重となりましたか。ある意味目立たなくて良いとなるとそれは好都合です。この世界の人間全員が前の世界の人間よりも悪人が多くはありませんが、それでもあのダンジョンが出現してからは増えているでしょう。

もしも、ニケのままなら確実に多くの者達に狙われたでしょう。新たなダンジョンが増えて、もしも私達の存在がニケであった事を知られる可能性もあります。それまでに確実に味方を増やし、世論も一般人からも支持を多く持つ必要があります。焦らずに確実に味方を確保しましょう。そうすれば自然と護ってくれますから。

 

ドロシーが体験した事全てを糧として、今をどの様に過ごして明日を掴む―――明確な指針を立てて全てを活かす。

―――復讐の果てに無意味の時間を浪費した。手に入れたのは孤独と自己嫌悪。

―――最後は罪滅ぼし。結局自分を顧みず無茶をして耳を貸さずに死亡。

 

私の行いはほぼ全てが間に合わなかった。失って、失って、失って―――ようやく気付いた時にはほんの僅かな宝だけ。だから、遊星が転生したこの世界で私が生きているならもう二度と手放しはしないし全てを手に入れてみせる。私達が再び集い平和な日々を送る為の理想の楽園を。

 

魔法の行使に疲れたドロシーはシャワーを浴びながら、魔法の使い過ぎによる魔力切れによる弊害を学んだ。ならば、これから先ダンジョンで魔力切れを起こさない様に細心の注意をして攻略をする。さっぱりした体でベッドに入り、遊星よりも先に眠りに就く。しかし―――。

 

……眠れない。どうしても眠れない。瞼を閉じて寝ようとしてもあの悪夢の光景がずっとこびり付いている。

平和を取り戻したとしても、思考転換を起こさなかった自身の記憶はその全てを覚えている。いや、忘れる事が出来ない大きな楔として打ち込まれているのです。

忘れるな―――、死んだ者達がそう言っているかの様です。罪を犯した私を赦さないと―――、逃がしはしないと―――、あぁ…私が本当の幸せになる事を望んではいないのではないのではないか?痛い…痛い……、心が痛く身体が冷たい。まるで冬の深い水底に引きずり込まれているかの様な―――

 

そこで瞼を開くといつの間にか隣のベッドで遊星が眠りに就こうとしていたのか寝間着に着替えていたのだ。しかし、その表情はとても心配していた。

 

「さっきまで手が震えてたし過呼吸気味だったんだが、本当は眠れないんじゃないか?」

 

「……」

 

本当は眠れると嘘を吐こうとしたが、どうしても嘘を吐けなかった。嘘を吐けば結局は前の後悔した自分と同じ選択だからだ。だから、震える声でありのままを伝える事にした。

 

「……本当は眠れないのです。…あの最悪の可能性が現実になるのではないかと怖くて忘れらません。冷水の湖に身体を引きずり込まれる様な分からない感情が溢れて……自分でも分からないのです……」

 

「………眠れないのは辛いからな」

 

遊星がしばし考え込む間も、ドロシーに悲しい感情が押し寄せ悲痛な表情を浮かばせている。

 

「……どうしたらいいんだろうか」

 

遊星が本気でどうしたら解決するのか?和らげる事が出来るか?の模索を考えていると、ドロシーの手が寝間着を掴んでいた。当の本人は無自覚なのだろう、瞼を閉じてもう一度眠りに就こうとしていたから。

 

「…はぁ、これを第三者が見たら殴られるだろうし下手すればドロシーからも殴られるんだろうなぁ~。こういう時はあれに限る」

 

遊星が隣のベッドをドロシーが寝ているベッドに隣接させて広く寝れる様にする。まだ秋とはいえ、夜は肌寒いので風邪をひかない様に毛布を掛けて傍で頭を撫でやすい様に傍に寄って密着して寝る事にした。遊星が子供の時、スキルが無い事で落ち込んでいる時に頭を撫でられながら眠ると心地良く寝れたという体験だったので、同じ事をすれば多少なりとも違うだろうというダメ元な作戦だ。

しかし、ドロシーの手の震えや過呼吸が少し、ほんの少しずつ落ち着いている事が目に見えて分かった。

 

「……しばらくの間はドロシーの隣でこうやって寝るのが最善策か?それ以外の方法は……分らんし」

 

こうして遊星は頭を撫でながら傍で寝る事で、ドロシーの快眠は約束されてこれ以降もずっとこの形で寝る事となった。尚、ドロシーが朝起きたら遊星が隣で寝ている事にびっくりしたが、殴る事はしなかった。自分が思った以上に落ち着いて眠れていた事や、体調の良さを考えて当分の間はこの形で眠る事にしたのは言うまでもない。睡眠はとても大事で、悪夢を見る事がないのであればそうするに限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回は少し話の内容が進みます。
新しいメンバーが一人増えるのでお楽しみに!


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