もしもDCユニバースにヒュージが存在していたら 作:グレイソン
ヒュージってドゥームズデイ並みに強いと思うんすよね
スーパーマンは歯噛みしながら宙を掛けた。こんなに苦戦する相手はそうそういない。そしてこんなに命を削られる相手もそうそういない。
まるでドゥームズデイと戦っているかのようだとスーパーマンは拳を叩き付けて思った。この敵はかつて自身の命を奪った相手と同じく、殴ってもそう簡単には倒し切れないのだ。
ヒュージ、それがこの敵性生物の名前だった。異次元のゲートから現れ、大群で侵攻しては、地球の各地にネストと呼ばれる拠点を作り上げて支配下におく。アポコリプスのパラデーモンと言った別惑星からの脅威とも取れるが、定かではないとはバットマンの言だ。スーパーマンとジャスティス・リーグもこの未知の敵との戦いに身を投じていた。だが、ヒュージに有効的な攻撃を与えるには、現代兵器や単純な物理攻撃では困難だった。マギと呼ばれる魔力がその身を守っていたからだ。一部のヒーローを除けば、大多数が苦戦を強いられていた。
殴り飛ばした後、蹴り飛ばされて、空中を大きく後退する。
「スーパーマン!」なんとか体勢を保った時、幼さの残る少女の声が背後から聞こえた。声の主は駆け寄ってきて、続ける。「私達も行きます!」
「よし、連携して行こう」スーパーマンは頷いて答えた。「君達が主戦力だ、私はサポートに回るよ」
スーパーマンは並び立った少女達を見た。リリィと呼ばれる、マギを身に宿し、巨大な武器CHARMを扱う素質を持った戦乙女達。彼女らこそがヒュージに対して有効打を与え、殲滅し得る力を持った戦士達であり、世界に芽吹いた新たな希望であった。
かつては男性もいた事をスーパーマンは思い返す。この未知の脅威との戦争が始まった当初は、マギを身に宿し扱えさえすれば、老若男女、人間とメタヒューマンの別無くCHARMを掲げて戦いに赴いていた。だが、次第に強化されていく敵の戦力に対し、男性の秘めるマギの量では追い付かなくなり、女性――それも十代の少女の力のみが通用するようになって行ったのだ。
スーパーマンは、シャザムやザターナ、ドクター・フェイトのようにマギを保有したり、扱える力を持ってはいなかった。むしろ魔法や魔力の類には耐性を持たず、鋼鉄と例えられる強靭な肉体でさえ、容易く傷を負ってしまうのだ。それでも大人として、そしてヒーローとして、年端も行かない少女達だけに死の迫る戦場を任せて、ただ眺めているだなんて事は出来なかった。特殊な訓練を積んだロビンやスピードスターであるキッドフラッシュと言ったサイドキックや、タイタンズの年若いメンバーのような例もあるとは言え、それを諸手を上げて素直に受け入れるには少しばかり思う所がある。それでも避けられぬ事だと言うのならば、せめて共に並び立って支えたいと言うのがスーパーマンの想いだった。
少女達が散開する中、スーパーマンはヒュージに飛び掛かって殴り倒した後、触手で激しく叩き付けられて吹き飛び、何度目かの日本の大地を味わった。ヒュージの出現がある度に、彼は現場に飛来しては真っ先に戦いを挑んでいる。激戦区であるこの国を訪れるのも、もう数え切れない程になっていた。
黄色い太陽が力を与え、回復を早めてくれてはいるが、度重なる連戦による疲労が積み重なり、痛みが全身の至る所に走っている。拳をついて立ち上がると、傷はとうに塞がっているが、土を血が湿らせていた。
「スーパーマン、今行きます!」明るい色の髪をした少女が叫んだ。現在出動しているレギオン一柳隊のリーダー、一柳梨璃だ。スーパーマンが彼女やその仲間達と共闘するのは始めてではない。その度に、一柳梨璃は彼の身を案じていた。心優しい娘であり、常に前向きで希望を求める戦士だとスーパーマンは思っている。
「援護します!」と、梨璃は駆け寄り、庇うようにヒュージに射撃を浴びせ掛けた。迫りつつあったヒュージの攻勢が一瞬止む。
「ありがとう、助かった」とスーパーマンは彼女に言って、再び飛んだ。「すぐに復帰するよ」
マギを持たぬ者がヒュージを倒し得るのかと問われれば、理論上ある一定の等級までは可能ではあると答えられる。ラージ級までなら通常兵器での足止めが出来、総攻撃を長時間続ければ撃破が可能である。その上の等級であるギガント級でも、より時間と火力を掛ければ決して不可能ではない。だが、いずれも必要な兵器の量と時間が余りに多すぎる為、現実的ではないとして不可能とされている。スーパーマンはラージ級と殴り合い、苦戦は必須ながらもそれを打倒し得る力を持っていた。ギガント級に対しては、死力を尽くせば――それこそ、ドゥームズデイと相打ちとなった時と同じくらいの力を発揮すれば、不可能ではないと言えた。
今対峙しているヒュージはラージ級。単身でも、前述の通り苦戦はするだろうが、決して勝ち目がない訳ではない。だが、彼一人がこの地で戦っているのではないのだ。打倒し得る力を持つ者達が共に立っている。
「スーパーマン、傷は?」と長い黒髪をなびかせたリリィが言った。一柳隊のサブリーダーで梨璃の擬似的な姉を担う少女、白井夢結だ。実力派として知られる彼女は噂に違わず、隙を見せずに斬り払いながらスーパーマンへと呼び掛けていた。
「大丈夫だ」スーパーマンはヒートヴィジョンで迫る触手を撃ち落としながら答えた。「そう簡単にやられはしないさ」
「そうですか、安心しました。では、当てにしてますよ」夢結はCHARMを振り回して触手を迎撃した後、青白い光と共に大きく跳躍する。マギを操る事で、リリィ達は超人的な身体能力を発揮するのだ。その様は、まるで黄色い太陽の下に立ったクリプトニアンのようにも見えた。「正面をお願いします! 私は鶴紗さんと共に側面攻撃を!」
「了解した」
「分かったよ」と、金色の髪を光らせて、反対側の足元に立つ安藤鶴紗が小さく返答するのが聞こえた。
突撃して数本の触手をスーパーブレスで凍らせて動きを封じると、本体を殴り付ける。硬い表皮に弾かれながらも、衝撃によろめかせる事は出来た。
その隙に二人の前衛が足元を狙ってCHARMを振るう。巨大な脚を斬りつけられて、その巨体が僅かに傾いた。
そこに、マギを纏った銃弾が飛来する。最後列にいる梨璃や二川二水のみならず、王雨嘉の狙撃や、郭神琳の射撃支援だ。命中すると炸裂し、ダメージを与えていく。
半ばから破壊されかけている触手を、スーパーマンは抱えて、渾身の力を込めて飛行し、なんとか引き千切った。そしてそれを振り回して叩き付ける。
揺らめく巨体に飛び掛かって斬り付けるのは楓・J・ヌーベルと吉村・Thi・梅、ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスの三人を加えた前線メンバー達だ。次々と斬撃を加え、体表を覆う装甲や関節を着実に削り取って行く。
だが、まだ倒れない。前線メンバー達がそれぞれ悔しげに声を漏らすのが聞こえる。
「私がやろう」スーパーマンは飛びながら両手を突き出し、突進してぶち当てた。衝撃を受けて、ようやっと巨体は地に沈んだ。それでもダメージは僅かで、息はある。とどめを刺すにはまだまだ掛かりそうだ。スーパーマン単体の攻撃だけではもっと掛かるだろう。
「私がコイツの動きを止める。その間に、君達は総火力を叩き込んでくれ」飛び退きながら、スーパーマンは梨璃に告げた。
「分かりました!」梨璃は頷いて答える。「でも、当たらないで下さいね!」
マギを帯びた銃弾や剣戟はヒュージと同じく、スーパーマンの体を容易く傷付ける。当たりどころが悪ければ致命傷になりかねない。しかし、速度自体は現代兵器と変わらないのならば、対処は容易い。
「私なら大丈夫だ、避けられる。何より、コイツを仕留める事が最重要だ」
「梨璃、信じましょう」梨璃の傍らに夢結が戻ってきて言った。「スーパーマンは私達よりもずっと長く戦い続けている歴戦の勇士よ。その力を侮らないほうがいいわ」
彼女は梨璃にそう言うと、スーパーマンを見据えた。
「あなたも、言うからには無事でいて下さい。希望の象徴を殺めるだなんて、ご免ですから」小声でそう告げる。しかしスーパーマンの聴覚なら聞き取れる。夢結は知っていて敢えてそうしているのだ。
「僕に任せろ」スーパーマンは頷くと、再びヒュージに飛び掛かって行った。その背後で、梨璃がリリィの仲間に向けて声を張り上げたのが聞こえる。
「これより一柳隊はノインヴェルト戦術をもって、ヒュージを撃滅します!」梨璃の言葉に全員が頷いたのが分かった。「スーパーマンが押さえている間に勝負を決めます!」
「フィニッシュショットは私がやります。各員散開してパスを上手く繋いで」夢結が言うと、一柳隊の面々がそれぞれに了解の声を返し、ほうぼうに散らばったのが分かった。暴れ回る残った触手を掻い潜りながら、戦乙女達は前進を開始する。幾人かは射撃を続けながら、格闘を続けるスーパーマンの少し後ろに迫る程に進んで来ていた。
撃ち出されたマギを伴う弾丸は光の玉となり、それをそれぞれが剣で弾き、銃で撃つと、その度に帯びた輝きが色を変えて行く。ヒュージも危険を察知したのか、より一層激しく触手を伸ばして妨害しようと藻掻く。だがスーパーマンがそれを剛力で押さえ付けた。スーパーブレスを駆使して動きを止め、ヒートビジョンで撃墜し、縛り上げるように抱えて動きを阻害する。
リリィ達は次々と連携して、遂に梨璃までパスが回った。
「お姉様、お願いします!」
「任せなさい、おいで梨璃!」
切っ先同士で触れ合う事で移した光球を携えて、夢結は飛ぶ。剣を銃へと変形させ、狙うはヒュージの中心部。
「行くわよ……スーパーマン!」宣言と共に、夢結は撃った。「避けて!」
光の弾丸が猛然とヒュージに迫る。命中するそのほんの僅かな瞬間に、ヒュージを押さえ付けていたスーパーマンは姿を消した。超高速で飛び退いたのだ。直後にマギスフィアがヒュージの体にぶち当たり、激しく拮抗した。まだ耐えると言うのだ。
「これで終わりだ!」スーパーマンは飛び込むようにしてその輝きの玉を殴り付けると、ヒュージの体の奥底に打ち込んだ。そしてマギの光を放つ弾丸は、ヒュージの巨体の中で弾け、その命を見事に奪い去った。
ズン、と音を立てて、怪物の巨体は沈んだ。先程までの激しい戦闘の音とは打って変わって、辺りに静けさが戻ってきた。
終わった。スーパーマンはよろめき、膝をつきそうになって、ギリギリの所で耐えた。連戦の疲労がこたえ始めた。彼の体を支えようと、梨璃や夢結、一柳隊が駆け寄ってくる。大丈夫だと手で制し、太陽に向かうように胸を張りながら立った。弱り倒れ伏してしまう姿を見せる訳にはいかない。希望の象徴が堕ちる訳には。
※
「辛くないですか?」と梨璃は鋼鉄の男に尋ねた。「ずっと戦ってばかりですよね? それも、ヒュージとの相性は悪いのに」
「辛いし怖い事ばかりだよ。でも、だからと言って何もしなければ、多くの命が失われる。そこには市民だけでなく、兵士やヒーロー達や、君達リリィも含まれるんだ」スーパーマンは宙に浮かびながら答えた。ボロボロにくたびれたスーツとケープも、太陽の輝きを受けて浮かぶ彼のその姿の前では霞む。「だから私は戦い続ける。例えこの力が及ばなくとも、せめて一撃でも与えられるのなら、その一撃に掛けて飛ぶ」
それから、スーパーマンはハタと気付くように視線を空の彼方へと向けた。いつものように何かに気付いたのだろう。それは破壊と殺戮の音か、悲鳴か助けを呼ぶ声か。この何度目かの共闘の中で、梨璃にもそう分かるようになっていた。
「行かなくては」
「止めはしません。ですが、決して死なないように」夢結が冷たげでいて、敬意を忘れない声で言った。「あなたは希望の象徴なのです。私達がそうなるずっと前から」
「ありがとう、分かっているとも」胸に掲げた、漆黒の暗闇を裂く赤い稲妻の如き希望の印に触れて、スーパーマンは頷いた。それから、音も無く高く浮かび上がり、雲を突き破って飛び去った。次なる戦場へと向かうのだろう。絶望に陥り掛けている状況を、希望で覆しに。
「希望の象徴……」分かたれた雲の浮かぶ空を見上げて、梨璃は呟く。今やリリィもその一端を担う存在となっているのだ。「私達も……そう在れるようにならないと」
「そうね、梨璃。彼のように在れるように、心して立ち向かって行かなくてはならないわね」
「はい、お姉様」梨璃は頷いて、己がCHARMを握り締めた。いずれは全ての人が安心出来る世界を作ろう。その中には、スーパーマンも含めて。
スーパーマンはタンクです
ヘイトを引いて耐えて殴り返すのでアタッカーでもあります