「…んっ……ここは…」
薄暗い部屋に置かれたベットで上半身を起こし、最後まで身に付けていた銀成高校の制服ではなくバスローブに変わっている事に誰かに着替えを行われた事実に気恥ずかしさを抱きつつ、ゆっくりとベットを出る。
酸素が少し薄く感じる。
どこか閉鎖的な空間か地下室に連れ込まれてしまったのかと思考を続けながらドアノブを捻り、内側に扉を引いた瞬間、目の前に人影を見つけ、二重の極みを繰り出す。
しかし、私の放った拳は人ではなく竹刀袋に収まっていた木刀を打ち砕く程度に収まる。やはり倉の荷物が背中に落ちたときに身体を少しだけ痛めてしまいましたね。
「折角助けたのに随分と物騒な女だな」
「コラ、だめよ?秋水」
「ごめん。姉さん」
そう普通にやり取りを続ける二人組の男女の顔に見覚えを感じる。いえ、そもそも銀成高校に通っていれば誰でも知っている二人だと私は思い出す。
「早坂さん?」
「あら、覚えていてくれたんですね。糸色先輩」
「殴るまで気づかなかったのか」
私の開けた扉の向こうにいたのは前年度に私から後を引き継いで銀成高校の生徒会長を務める早坂桜花と同じく副会長の早坂秋水だった。
どうして、彼女達が私を助けて?
「今は大人しく着いてきてくれ」
「……分かりました」
複数の息遣いを感じる閉鎖的な空間で、事を荒立たせるのは得策とは言えない。……でも、お坊っちゃまのいない世界でのうのうと生きていける程、私は……。
二分、三分、長い廊下を抜けると巨大なフラスコの鎮座する部屋に通され、他の気配よりも強い威圧を受けながら、此方に背中を向けたまま椅子に腰掛ける白髪の男性の近くで私達は歩みを止める。
「漸く役者は揃った様だね。先ずは若き少年少女の感動の再会を称えよう」
その言葉と共に照明が付き、私は目の前に鎮座していたフラスコの中で笑みを浮かべている、大好きで愛しい、この世の何よりも大切な御方に駆け寄る。
「お坊っちゃま!」
「二日も寝込んでいたそうだが、お前も怪我は無さそうで安心したぞ」
「はい、はい、私は大丈夫でございます。何方かは知りませんが、この御恩には必ず報いてみせます。お坊っちゃまを助けて頂き、ありがとうございます」
身体の大部分は砕けているけれど。それでも生きているお坊っちゃまに再会できた喜びに涙を流し、ゆっくりと後ろに振り返って感謝の言葉を伝える。
「その感謝の言葉は百年前に貰っているよ、糸色賛。私と君の一族は古き善き友人であり、パピヨンと君が出会ったのは世界の運命とも言える」
「私と、お坊っちゃまが運命?」
「ああ、先に話は聞いているが武藤カズキとあの処刑鎌の女はとんでもない組織に与しているそうだ。そして、俺のひいひいじちゃん」
「人間の名は捨てた。今はマスター・バタフライ、そう同胞には呼ばれている。しかし、糸色賛君はやはり景さんに……いや、君の高祖母様に良く似ているな。実にエレガントでBeautifulだ」
エレガントでBeautifulな私のお婆様とは?