兵法書を武藤カズキに届けて銀成高校の寄宿舎に出て数分ほど経った頃。私とお坊っちゃまの背後を着いて歩く人の音が一つ、二つ、次々と増え始める。
人間の呼吸音とは違う。
ホムンクルスとも違います。
「何か私達にご用件ですか?」
「へえ、俺の気配に気付くんだ」
「ホウ。
「畏まりました」
お坊っちゃまの命令に従って私は後ろに二歩ほど下がり、飄々とした剣士を睨み付けるお坊っちゃまの背中を眺めていたその時、強烈な風の流れを感じて真後ろに蹴りを繰り出すも扇子に受け止められる。
「神楽さんと、妖怪を無限増殖させていた白い方。闇討ちや一対一の勝負ではなく、襲撃ということなら私も加減は致しませ……神楽さん?」
「無駄だよ。奈落のヤツがソイツらの意識を奪っちまったから其処にいるのは抜け殻みたいなものだ。俺は最後に生まれたから奈落に付き合ったおかげで意識はそのままだが、姉兄は全員魂無き操り人形さ」
その言葉に怒るよりも先にお坊っちゃまの鋭い抜き手が彼の胴体を貫き、力任せに殴り倒した。
「俺には関係無い事だ。だが、あの奈落という男の遣り口は気に喰わん。賛、俺もお前や武藤のように蛮竜の継承権を試す事は可能か?」
「私と同時であれば可能ですが、何の準備も無ければ現代の身体は無防備になりますよ?」
そう言ってお坊っちゃまに危険性を伝えるも一歩も退くこと無く「俺とお前の羽撃きにヤツは邪魔だ」と私の忠告を一蹴し、その頼もしさにいつも以上にドキドキしてしまいます。
「……俺はそれを聞いているけど?」
「ご心配無く。私の友人やご先祖様は強いので貴方達の襲撃など無意味に等しく、何より私のお婆様を支配出来ていない時点で力量は知れています」
にっこりと剣士の方に微笑んで上げる。
お坊っちゃまの「あのヤング姿のオババか、俺も子供の頃は泣かされていた」と沁々と呟いていますけど。あのときはお坊っちゃまが虫の苦手なお婆様に蝶々を間近で見せたせいですよ?
「お坊っちゃま、基本的に私が行けるのは戦国時代か明治時代以前です。歴代最強の蛮竜の遣い手に会える機会は限りなく低いことです」
「その程度の障害は些細な事だ。それよりも過去に適したオシャレをしなければいけない。先ずは、いつものファッション店に行くとしよう」
「…………ミニスカ着物は履きませんよ?」
「安心しろ。その時は俺が直々に着てやろう」
そこは、私に着せるのでは?