蝶野家の地下施設。
マスター・バタフライ様とLXE同胞の方々の手を借りて建設の完了したラボに入り、私とお坊っちゃまは蛮竜の柄を握った瞬間、いつもとは違う風の匂いに思わず、目を開けてしまった。
「……雪が積もっている?」
「冬の時代に来たのか」
「いえ、こんなことは今まで」
蛮竜が意図的に向かう先を変えた。
そう考えるのが妥当ですが、やはり違和感というべきか。何やら此処で出会わなければいけない何かを感じるのは、私に流れる糸色の血筋の影響でしょうか。
「ん!母ちゃんいた!……おむねない?」
「失礼な子供ですね、少しは有りますよ」
フンスと胸を張ってみるものの、ペタペタと触られて小首を傾げられた瞬間、何だか惨めな気持ちになり、お坊っちゃまを見たら失笑を押さえるように握り拳を口許に添えていました。
泣きますよ、お坊っちゃま。
「しとり、何処まで行く、の…えぇ?…」
「賛と瓜二つだな」
「ん!んーっ、こっちが母ちゃん!」
「……貴女が、糸色景……」
ゆっくりと立ち上がって彼女を見つめる。
154cmの私より小柄な体躯。細い手首を見るに骨格も華奢。曾祖母様の言い残した通り、捕まえたら簡単に連れて行けそうな雰囲気の女性ですね。
「ぬおぉおおぉっ!!?」
「お坊っちゃま!?」
「ドンがちょうちょとった!」
タヌキにも見える生き物がお坊っちゃまのマスクを齧り、爆速で駆け抜けていく光景に動きが止まってしまう。しかし、なんですか。
あのキュートすぎる生き物は…!
「ねえ、貴女のペットですか?」
「ぺっと?ドンだよ?」
「しとり、ペットというのは生き物を家族として訊ねるときに聞く英語のひとつです」
「ん!ドンはぺっと!」
明治時代に英語に詳しいという話も本当なのですね。そして、私の曾祖母様の名前も「しとり」ということは、このお嬢さんが私の曾祖母様────。
アグレッシブさは変わりませんね。
「ところで、貴女が武藤君の言っていた賛さん?」
「はい。そうです、高祖母様」
高祖母様は穏やかな笑顔を私に向けていますが、何処か不安と恐怖、未知に対する好奇心の感情が見え隠れしていて、彼女の辛さを多少ではあるものの。
少しだけ理解することが出来ました。
「ま、全く、タヌキの躾ぐらいしておけ」
「ドンはイタチですよ?」
そう言って間違いを指摘する高祖母様の前でイタチのドンを抱えるお坊っちゃまをチラリと見ると静かに掴んでいるイタチを見つめています。
「本当にイタチか?デブだぞ」
「お坊っちゃま、冬毛は厚いものです」
私の指摘にお坊っちゃまは顔を逸らす。
何だか間違いの多いお坊っちゃまは新鮮ですね♪︎