「賛、帰るぞ!」
「え?あ、畏まりました」
突然のご帰宅宣言に朝食の準備を続けていた私は少しだけ驚きながらもお坊っちゃまに続くように立ち上がり、ブローチの中に仕舞っていた時逆様の欠片を取り出す。
武藤カズキの継承の終わりもこの様な感じだったのかと考えるものの。やはり、高祖母様達に出会えたのは初めての事だったので少しだけ名残惜しいです。
「もう帰るの?」
「ん゛っ……しとりお婆様、少し長いお別れですが、貴女が生きていれば絶対に会えます」
「ちなみに今も俺達が子供の頃まで生きるぞ」
「しとりは長生きするんですねぇ」
高祖母様は穏やかな笑みでそう言うとしとりお婆様を抱き上げ、ヒラヒラと私達にお別れの挨拶をしてくれました。やはり、貴女達に会えたのは最高の幸せです。
ゆっくりとスカートの裾を摘まんで一礼し、お坊っちゃまも同じように右手を左胸に添えて一礼した瞬間、私達の見ていた景色は雪山の小屋から薄暗く人気の無い地下室に戻っていました。
「久しぶりにお母様に会いたくなりますね」
「会いに行くなら奈落を倒してからだ」
「流石です、お坊っちゃま」
にっこりと微笑んでお坊っちゃまを見上げた瞬間、視界の端に本を読んでいるマスター・バタフライ様とドクトル・バタフライ様が椅子に腰掛け、私達のやり取りを静かに眺めている。
「おじいちゃんズ、何か用か?」
「私は糸色君に頼まれた物を渡しに来たのだよ。賛君、君の渡されたお守りを蛮竜に翳したまえ、そうすれば更に蛮竜は強さを得るだろう」
ドクトル・バタフライ様の言葉に戸惑いながらも左手首のお守りを見下ろし、ゆっくりと地面に突き立てていた蛮竜の刀身に触れた瞬間、蛮竜が赤くなった。
「そのお守りはとある妖怪の遺した結晶を加工して作った物だ。蛮竜は鍛え直されたとき、妖刀として変質し、妖怪の能力を覚える特性を得た」
「そんな記述は残って……まさか」
「そう、君と武藤君のおかげだ。君と彼の継承権を巡った戦いは過去の遣い手達に能力を鍛える切っ掛けを与え、奈落との決戦に向けて手助けしてくれている」
「君のお婆様もその一人だ」
お婆様もご先祖様が私達に力を貸してくれている。
それが、どうしようもなく嬉しい。お坊っちゃまと生きると決めた私をみんなが認めてくれた。もはや迷う意味も心に曇りもありません。
「ありがとうございます、ご先祖様」
「賛、良かったな」
「はい。とても幸せでございます」
この蛮竜なら奈落を倒すことが出来ます。