マスター・バタフライ様は各国の錬金戦団と交渉し、日本に向かっていた奈落の足止めを行っていたらしく、私達の役目は奈落と戦うこと。
奈落の名前を名乗っていた「彼」曰く現在の奈落は全盛期の半分にも満たない力だが、極めて危険な存在なのは変わることはないそうです。
四乃森の操縦するヘリコプターに乗る私とお坊っちゃまと武藤カズキと津村斗貴子は静かに決戦の場まで体力を温存しているものの、何故か男女別に恋人同士が向かい合って座っています。
「糸色、匂いが変わったか?」
「えっ、臭いですか?」
「臭いとは言っていない。お前から感じていた闘争の気配が薄まっているように思えただけだ。……いや、むしろこれが本来のお前の気配か」
「何だか照れてしまいます」
そう言ってクスクスと二人で笑っているとお坊っちゃまと武藤カズキの視線を感じ、目の前に視線を向けると不服そうに顔を逸らすお坊っちゃまと、羨ましそうに津村斗貴子を見つめる武藤カズキがいた。
二人とも素直に言えば良いのでは?
そう思ったものの。離陸している今、ヘリコプター内を歩くのは危ないです。なによりお坊っちゃまの嫉妬する顔に、こう、ドキドキしてしまうのです。
「賛さん、そういえばひいひおばあちゃん達に会ったんだよね?どうだった?」
「お二人が言うように私に似ていましたよ。ただ、あの華奢な身体でよく二児の母親になれたものだと驚きましたね。子供にも劣る筋肉で、本当にどうやって生活していたのでしょうか」
「それはオレも思った。ウチの家系って筋肉質に成りやすいのが特徴的だったけど。ひいひいおじいちゃんの身体を見たら納得しちゃうよね」
「武藤の筋肉もそうだが、俺の賛も筋肉の量なら負けていない。見た目こそ小柄なメイドだがインナーマッスルは俺やお前よりも凄ッ……!」
「破廉恥でございます」
シートベルトを外してお坊っちゃまの近くに移動し、鳩尾を殴っておきました。再従兄弟といえど男の人に私の筋肉を教えるのは破廉恥です。
「あっ、でも筋肉なら斗貴子さんもすごいよ!」
「フン。ブチ撒け女が俺の賛に敵うかな?」
なにやら見覚えのある喧嘩を始めるお坊っちゃまと武藤カズキに呆れながら席に戻り、耳まで赤くなっている津村斗貴子にこっそりと「……私達も好きな人の自慢しますか?」と訊ねてみます。
「馬鹿者、そんなことできるか!」
「そうですよね。良かったです」
貴女までお坊っちゃま達のように張り合ってきたら私は羞恥心で恥ずかしくなりすぎて、このヘリコプターを飛び下りることになっていましたよ。