「ママ、私と勝負しましょう!」
夕食の準備を進めていたときです。
唐突に提案してきた倫さんに困惑しながら「何故、その様な事を言い出したんですか?」と両手の水気を拭き取りつつ、そう彼女に問い掛けると「この時代のママになら勝てるわ!」と言った。
未来の私は甘やかさずに叱り付けることの出来る女性に成長しているということですね。まあ、それはそれとして母に対して偉そうな口の聞き方ですね。
「お坊っちゃま、お夕食はキッチンに置いています。ソウヤ君と巧さんも食べて下さいね。倫さん、貴女には手加減抜きで相手してあげます」
「ヒエッ…!」
にっこりと微笑んだだけなのに怖がられてしまいましたけど。やはり未来の私は本気を出さずに彼女と手合わせをしていたのだと直ぐに理解できた。
トレーニングルームに案内し、モニター越しに見ているであろうお坊っちゃまに視線を送り、ソウヤ君と巧さんも映像を共有して貰う。
「ふ、ふん!良いわ、武装錬金!」
やはり、倫さんも武装錬金ですか。
「これが私の
そう言って構える倫さんの手足には蝶のマークを宿したメカニカルな脛当と籠手が装着され、背中にはジェットパックらしき物を背負っている。
ジェット噴射による高速移動と背部のスラスターによる飛行を可能とする武装錬金ですか。おそらくエネルギー源は精神の昂り、特に闘争本能の強さですね。
「出発進行…!」
「来なさい」
両足のスラスターを点火し、私の間合いに飛び込んできた倫さんのパンチを捌き、攻撃のタイミングに合わせてスラスターの軌道を変化させ、パワーを倍増する戦闘方法に関心を抱いてしまう。
───ですが、余りにも動きが稚拙すぎる。
「貴女、鍛練をサボっていましたね?」
「ゔぇっ?!な、なんのことよ?」
「じっくりと鍛えて上げましょう。ただ、糸色流の体技は貴女のスタイルに合っていませんし、此方は相楽家の家伝になります」
「ちょ、ちょっと待って!?」
防御を不要とした前進制圧の動きで倫さんに近づき、型も技も無関係な喧嘩屋としての動きで具足部位を殴り付け、がら空きの腹部に二重の極みを撃つ。
「げはっ!?や、やったわねえぇ!!」
「流石のタフネスです。ほら、来なさい」
「うおりゃああぁぁ!!!」
パンチのスピードを底上げするようにスラスターを噴進させ、二重の極みも同時に繰り出そうとした倫さんでしたが、二重の極みは決まっていない。
そもそも刹那の瞬間に二度打つ事が、その様なミサイルの乱れた軌道で撃てると本気で思っているのかと少しばかり不安になります。
「覚えておきなさい。極めるとはこういう事です」
二度目の二重の極みを撃って倫さんの意識を完全に刈り取って武装錬金も解除された彼女を抱き上げる。帰るまで時間はありますからね、倫さんにも喧嘩屋としてのスタイルの基礎くらいは教えて上げましょう。