翌日の朝。
御寺の境内でお婆様と木製の薙刀を振るって稽古を着けて頂いていたその時、お母様の発する強烈な殺気と奇の泣き声が聴こえ、頭に薙刀がトンと当たってしまいました。集中力を乱した私の負けですね。
「奇、其処を退きなさい。昨日は蝶々仮面の変態を紹介され、今度は三十代を越える男と結婚したい?しかも二股をするために国籍を変えて重婚する?もはや怒りしか湧かない、ゴミクズじゃない」
「ひ、火渡さんはいい人ですわ!?」
「そ、そうです、えと、その」
「既に未来から娘が来ているのは良しとしましょう。しかし、現代の奇に手出しするなら成人を迎えて、しっかりと大人になったと判断しないといけないわ」
相変わらず、お母様の愛は重いですね。
どうしたものかと熟考する私に気付いた奇は救いを求めるように此方を見つめるので仕方なくお母様と奇の間に割り込み、カン!と薙刀の柄を石畳に叩きつける。
「お母様、私とお坊っちゃまの結婚を認めて下さったのに奇の結婚は認めないのは不公平です。せめて高校卒業までなんとかなりませんか?」
「賛、奇、私の愛する娘達よ。私はハッキリと言えば百年前から続く因縁深き錬金術の者と貴女達が交際する事を認めることさえ辛い」
「それは、分かりますが」
「でも、火渡さんは本当に良い人で……」
どうにかしなさい。
そう訴えるようにスーツに身を包んだ火渡戦士長を睨み付けると冷や汗を流しながら「ここからは俺が話す」と言って、私と奇の前に出て、お母様と向かい合う。
「未来の俺が二人と結婚するのは変えようのない事実なんだ。頼む、俺が奇と結婚しなかったら巧のヤツも生まれて来なくなるんだ!」
「…………はあ、嘘は言っていないわね。蝶々仮面の変態もこういう風に素直に本心を言えば許すのに、本当にひねくれているわね」
「俺の本心は賛以外に伝えるつもりはない」
お坊っちゃまの言葉に溜め息を吐いた。
ゆっくりと白髪と黒髪の混ざり合った髪の毛の毛先を髪紐で結んだお母様を私達は見上げ、彼女の次の言葉に不安と期待を抱く。
「好きにしなさい。ただし、当主になりたいと言わないこと。それを守るなら婚姻を認めます。……全く、頑固な所はあの人に似なくてもいいのに」
あの人とはお父様の事ですね。
お婆様からは大変な戦いを経験したとは聞いていますけど。未だに、その戦いが何だったのかをお母様もお父様も教えてくれません。
いえ、それだけ大変な戦いだったと考えれば思い出したくないと思うのも仕方ない事ですね。そうでなければお母様のあの頑なに結婚を許さない意思も分かります。