実家滞在を一週間ほど経験した倫さんと巧さんは思ったよりも疲弊しておらず、お母様の柔らかく温かな髪の毛に包まれることでリラックス出来たようで、私はとても満足しています。
ただ、二人ともいきなり帰るのはダメです。
「お坊っちゃま、これを着けて下さい」
「……言霊の念珠か?」
「アレは返したじゃないですか」
あんなものを使わなくても私はお坊っちゃまのものですから、そういうのは宜しくないと思います。奇は最後まで火渡戦士長にプレゼントするべきかと悩んでいましたけど。
流石に使わない筈です。
多分ですが、きっと大丈夫でしょう。
「しかし、武藤君達はどうなっているのでしょうか」
「武藤達の孫お披露目は実質的に結婚挨拶みたいなものだからな。アイツも気合いを入れて、ツンケン女の事もソウヤの事も話すだろう」
「それなら安心できますね」
にっこりと微笑んでお坊っちゃまを見上げた瞬間、電柱の上に立つ着物姿の男を見つけ、蛮竜を鞘袋から引き抜いて睨み付ける。
「性懲りもなくまた来たか」
「おっと今回は喧嘩を売りに来たわけじゃないぜ。奈落がお前達を相手取るために準備したみたいだからな、先ずは案内しに来てやったんだ」
スラリと真っ黒に染まった刀を引き抜き、構える男に警戒していたその時、私とお坊っちゃまの背後に謎の亀裂が現れ、あの時のブラックホールに吸い込まれる。
「手を伸ばせ、賛っ!!」
「お坊っちゃまッ!!」
そう言って手を伸ばすお坊っちゃまの手を掴み、蛮竜の施す結界に包まれながら私達は闇の中に吸い込まれ、浮遊感と身体を締め付ける様な圧迫感に奈落の気配を感じながら周囲を見渡す。
「蜂…!」
「賛、虫が怖いのは分かるが腰が折れる」
「も、申し訳ございません」
あの蜂から奈落の気配を感じていたけど。
今は鈍い羽音と蜂の怖い顔が見えるだけで、完全に出入り口が分からなくなってしまった。ここが、どこなのかは本家の倉で読んだ記憶はあるものの、その対処を出来るほど私は霊力も妖気もない。
「(……私に出来ることがない……)」
「此処が何処かのか知っているか」
「おそらく冥道というあの世に繋がっている空間だと思います。戦国時代、この冥道を切り裂いて相手を滅する妖怪がいたという伝記を読んだことがあります」
「対処法は?」
「同じ冥道を扱えれば入り口を斬れます」
「蛮竜でいけるか?」
そう問いかけるお坊っちゃまの言葉に首を振る。今の私と蛮竜で出来ることは雷撃を発し、熱風を起こし、結界を破ることだけ。
初代様は使えていた可能性もありますが、やはり私の力は蛮竜の全力を振るえる程に到達していないのかと悔しさに唇を噛んでしまう。
「落ち着け。お前なら出来る筈だ」
「……はい。やってみせます」
ゆっくりと蛮竜を構える。
お坊っちゃまをを死なせるわけにはいきません。