私に使えるのは結界破りと雷撃のみ、お坊っちゃまと一緒に窮地を脱するには不十分すぎる。何か蛮竜に秘められている能力を呼び覚ますことが出来れば、この冥道の中を脱出することが出来る筈────。
「ムッ。手が透けてきたな」
「ダメですよ!お坊っちゃまは絶対に消えちゃダメです、あなた様が居なくなったら生きていく意味も生きる意志も私は無くなって……!」
「落ち着け。まだ消えていない。お前は蛮竜と意識を合わせるために集中しろ」
蛮竜を握り締める手を緩めそうになる私の手に手を重ねるようにお坊っちゃまが私の手を握り締め、蛮竜に意識を集中するために安心感を与えてくれる。
大丈夫。
落ち着いて、私なら必ず出来る。
ドクン、ドクン、ドクン……!
「(臭いが、変わった?)」
スンと鼻を鳴らして、いつもより空気の流れや霊気、妖気の香りがハッキリと分かる。これがヤングお婆様の話していた蛮竜に施された仕掛け?でも、こんなものじゃ冥道を抜け出すものには足りたい。
それに身体の奥が熱く、蛮竜から流れ込んでくる霊気の桁が今までのモノよりも多い。なにか冥道を抜け出す切っ掛けを探さないといけない。
「賛、無いなら斬ってみたらどうだ」
────斬る。
えぇ、そうでございますね。
無駄に悩み続けるのは此処に私達を送り込んだ奈落の思惑に思考を支配されていたから、それならば手当たり次第でも良いから斬った方が良いです。
「蛮竜、あなたの考えを読み解く事は今の私には出来ません。───ですが、必ずあなたの心意を読み解けるようになります。だから、力を寄越しなさい!」
ドクンッ…!!
私の呼び掛けに応えるように蛮竜の刀身の半分が黒く染まり、何処か懐かしい臭いが刀身に纏わり付いて、私の霊気が妖気に変わっていくのが分かる。
でも、これならば切り裂ける!
「蛮竜ッ!!!」
刀身に異なる二つの匂いが混ざり、冥道の虚空を切り裂いた瞬間、私とお坊っちゃまの身体は先程まで立っていたコンクリートの地面に転がりながら着地し、ゆっくりと目の前に立つ着物姿の男───夢幻の白夜を睨み付ける。
「さっきは良くもやってくれましたね。私だけならばいざ知らずお坊っちゃままで、あの様な危ない場所に送り込んだ報い、受けて貰います」
「へえ、本当に変化してやがる」
「何を言って……髪が白い?」
「余所見は禁物だぜ!」
白手袋を突き抜ける尖った爪、伸びた犬歯、お母様の様に一部が白く染まった髪の毛先に戸惑う私に夢幻の白夜が斬りかかってくる。
「くっ、私に何をしたんです!」
「さあね、少なくともオレは何もしてない。が、これから奈落がしようとしていることは簡単に想像できるがお前らに教えてやるつもりはない」
「いいや、お前には根こそぎ吐いて貰うぞ!」
そう言うとお坊っちゃまの武装錬金が彼の身体を吹き飛ばした刹那、凄まじい突風と共に彼の姿は瘴気に包まれて消えてしまった。
「……あ、戻りました」
「あとでおじいちゃんズに聞くぞ」
私は黒髪に戻ったことに、ほうっと安堵するものの。やはりどこか懐かしい臭いと、何かを求めるような意識に身体が呑み込まれそうになる。