奈落、再び 序
銀成高校の裏山で蛮竜を振るい、あの時に感じた強大な力を自在に扱えるようになるために意識を蛮竜に向ける。しかし、蛮竜は私と意識をシンクロさせることを拒んでいるように感じる。
「やはりお前では蛮竜本来の力を引き出すには足りぬか。だが、それは儂にとって好都合だ」
「此方こそ好都合です。私の蛮竜に斬り倒されるためにやって来てくれたのですから。その人を見下した顔のまま素っ首を叩き斬って差し上げます!」
白い毛皮と骨の仮面を被って私の背後に現れた奈落に向かって、蛮竜を横薙ぎに振るって衝撃波を放ち、刀身を赤く染め上げ、彼の纏う結界を切り裂こうとした刹那、私の蛮竜が奈落の結界に競り負け、その衝撃で私の手から蛮竜が弾け飛ぶ。
「結界破りの赤い蛮竜か。犬夜叉の鉄砕牙と能力は似ているが、生粋の妖刀と鍛え直された妖刀では天地の差があると言うものだ」
「……解せませんね。あの城でもこれだけの結界を張っていた筈、それなのにあの時は武藤君と私に貴方は分身を差し向けた」
「───確かに武装錬金で城を築き、黄泉還ったばかりの儂であればその赤い蛮竜を防ぐ結界を張ることは出来なかっただろう。しかし、この時代は良いものだ。戦国の世で強者と言われた妖怪も年老い、こうして容易く取り込めるのだから」
まさか隠れていたのではなく日本に住まう妖怪を襲うために、わざと目立つ場所に城を築いて、私達の意識を集めるように行動していたのですか?
私達の行動を計算していた奈落の策略に冷や汗を流し、地面に突き刺さっている蛮竜まで駆け抜けるには、おそらく十秒は掛かってしまう。
「無手で戦えぬか。あの男なら私の触手に噛みつき、瘴気を浴びようと高笑いして向かってきたぞ。もっとも、お前にその様な芸当は出来ん」
「さっきから、私を誰と比較しているんです」
「……嗚呼、そうか。五百年以上も昔の出来事を現代のお前が知らぬのも無理はない。かつて戦国の世でその蛮竜を振るっていた男だ。儂と奴の因縁もまた長くお前では想像も出来ない間柄だ」
ゆっくりと懐かしむように話す奈落を見据えたまま摺り足で蛮竜に近付いていく。ですが、これは奈落が黙認しているから出来ること。
……しかし、この口振りだと奈落と初代様は何かしら仲良くしていたものの、何かが原因で仲違いしてしまったように感じるのですが、あの方はそんなこと一度も話していませんでしたよ?
「時間稼ぎは済んだか?」
「えぇ、蛮竜は既に回収しました」
そう言って赤い蛮竜ではなく通常の蛮竜を構える。