奈落の背中を突き破って飛び出してきた触手の群体を蛮竜で切り裂き、石突の月牙で間合いを変えて斬り、地面に雷撃を放って広範囲を焼き尽くす。
しかし、奈落の結界を破る威力は出ていない。
あの時の感覚さえ思い出せれば、この大鉾を自由自在に操る力を得ることさえ出来れば私は奈落を倒すことが出来るというのに────。
何故、貴方は私に答えてくれないの?
「余所見とは余裕だな」
「あぐぅッ!?」
奈落の言葉に意識が呼び戻されると同時に蛇のような胴体を持つ触手に身体を弾き上げられ、瘴気を纏った槍が肩や脇腹、右足の太股を掠り、激痛に目が霞み、気を失ってしまいそうになる。
そのまま薄れる意識のせいで上手く着地することが出来ず、地面を転がり、片手で蛮竜を構えて奈落を睨み付け、血まみれになりながら蛮竜に語り掛ける。
何が足りないの?
お願い、私に教えてほしい。
ドクンッ……!
「(違う。あの時よりも弱い…!)」
「お前が蛮竜の力を引き出す事など不可能だ」
「生憎、不可能なんて言葉は存在しません。千の努力、万の努力、幾度も積み重ねることで人は不可能という壁を乗り越えて来たんです。───それに、今の私に使えないのなら私は蛮竜の全てを受け入れる」
お坊っちゃまと生きる未来のために、私は私に出来ることは全てをやり遂げる。そのためなら、この身体が妖怪に成ろうと受け入れ、受け止める。
「……臭いが、変わった…!」
ドクンと大きく鼓動した蛮竜の柄を握り締めて、ゆっくりと意識を集中させる。黒い毛先が、白く染まっていくのが視界の端に映る。
「随分と不細工な姿だな」
「乙女に向かってなんて事をッ!?」
蠍のような姿に変貌した奈落の大鋏を受け止めながらお母様や高祖母様に似ている自慢の顔を貶す奈落に蛮竜を放り投げ、同時に駆け出す。
いつもよりも素早く動ける身体に高揚感と全能感に酔いしれそうになる意識を制御し、奈落の背中を踏み潰し、飛来する蛮竜に奈落を叩き落とした。
しかし、奈落の身体に土になって崩れる
「……これは…一体……?」
「ソイツは奈落の傀儡だよ」
いきなり真横に現れた夢幻の白夜にビクリと身体を震わせて驚きながら蛮竜を構える。彼からは奈落の臭いが、全くと言っていいほどしない。
「昔から奈落はこういう狡い手を使っていたらしいけど。兄者も同じように使っていたから、こういう使い方もあるんだろうぜ」
「奈落の居場所を教えて下さい」
「生憎と俺も知らないんだ。戦国時代に裏切ったから意識はそのままだが身体は自由に使えない」
それは、人形ということになるのでは。