「津村さん、蛮竜に触れて頂けますか?」
「むっ。私が触れても変化はしないぞ」
「少し試したいことがあるんです」
水平に刀身を寝かせて蛮竜を差し出す私に促されるがまま津村斗貴子が蛮竜の柄を握り締めたそのとき、僅かに彼女の纏う気配を蛮竜が吸い取った。
やはり先程の奈落の分身と戦っていたときに彼の気配や瘴気の一部を浴びていたのでしょうね。あの一人と一匹の組み合わせには意味があったのですね。
「……何を試しているんだ」
「津村さんに纏わり付いていた奈落の気配を吸い取ることが出来るのかを試していました。結果は成功しましたが、蛮竜に奈落の妖気を吸わせるのはダメでした。吐き出そうと刀身が軋んでいます」
そう言って私は鼻提灯を作って眠っているお坊っちゃまに膝枕したまま蛮竜を広間の畳に置き、ミシリと畳にめり込む蛮竜を放置して、武藤カズキから津村斗貴子に視線を向ける。
「さて本題に入りましょう。津村さんの話した奈落の目的は概ね正解です。───ですが、違うのは奈落の目的は私の身体と蛮竜です」
「……何故、それを私に話す」
「少なくとも私の現状を話すならお坊っちゃまを除けば好敵手たる貴女だけと判断したからです。それに、未来の子供達がお付き合いする関係ですから」
「そ、それは関係ないだろ!?」
「起きますよ、武藤君」
「くっ、膝枕の呪縛か…!」
そんなものは無いと思いますよ。
しかし、こうして悩んでいた事を話すというのは良いものですね。ほんの少しだけ身体に重くのし掛かっていた不安や恐れが無くなりました。
「それに私は奈落ごときに負けないのです。初代様に打ち倒せる相手を、この糸色三百年の歴史上最高傑作と言える私が負けると津村さんは思いますか?」
「───お前が負けるものか、お前を倒すのは私だ。あの様な陰湿ワカメ頭にお前が負けるところなど想像することも出来ないな」
私の言葉に驚いた表情を見せるも直ぐに笑って、私の言葉を肯定してくれた津村斗貴子に笑みを返し、さっきから狸寝入りしているお坊っちゃまの頬に触れる。
「お坊っちゃま、おはようございます」
「……フン、わざと聞かせていたな」
「二人きりでは暴走しますから」
「カズキも……お前は本当に爆睡しているのか」
「いや、さっきまでソイツも起きていた。が、お前の傍にいるが武藤にとって一番安心できる場所だからこそ無防備に眠っているのだろう」
「まあ、ラブラブなカップルですね♪︎」
「お前が言うなッ、このバカップルめ」
それはもう褒め言葉です。