奈落の目的を津村斗貴子に伝えた翌日の朝、蝶野家の正門の前に白髪と化した奈落がいた。ですが、私を狙っている奈落ではなく「彼」のほうだ。
「お久し振りでございます。奈落」
「今の吾は抜け殻だ。父上に妖気と力の大多数を抜き取られ、こうして生きているのが不思議と言える現状を享受する他無い……全てを失った妖怪の成れの果てだ」
ゆらりと此方に伸びて動く彼の手を弾き、私に振れようとする行為を拒絶する。私に触れて良いのはお坊っちゃまと家族だけです。
貴方は何か邪な雰囲気を感じるので嫌です。
「……フハ、ハハハ、やはり吾ではダメか…」
「ダメも何も私と貴方は敵ですよ、奈落」
そう言うと「彼」は苦笑し、私の蛮竜に視線を移す。
「
「さっきから、何を言っているんです?」
私の高祖母様の名前を呟き、更に腕を伸ばしてくる彼から距離を取り、二階で此方を見ているお坊っちゃまに助けを求めようとしたその時、一瞬の隙を突かれて私は「彼」に抱き締められてしまった。
しかし、悪意や敵意はなかった。
あるのは悲しみと後悔の念だけ、黒色火薬の蝶を飛ばすお坊っちゃまを制止して、ゆっくりと私を抱き締める「彼」の肩を押し、そのまま顎先に頭突きを見舞い、地面に尻餅を突く「彼」を見下ろし、ゆっくりと右手を空に掲げる。
「ガフッ!?」
「貴方は、この私を高祖母様と重ねるのは許しましょう。しかし、私の身も心も全ては愛する蝶野攻爵さんに捧げると誓った。私は、あなたが求める高祖母様の代わりではありません!」
「……そうか…ッ…そうだな……」
「高祖母様が言っていました。『人を愛すると人は弱くなる。けど、恥ずかしがることはない。本当の弱さじゃないから』と、貴方が何を思おうと高祖母様を愛した事で強くなる意味と、愛する意志を手に入れたんです」
そう言って私は「彼」の手を引いて立ち上がらせ、正門を出ていく後ろ姿を見送ってお坊っちゃまの待つ部屋に向かおうとした瞬間、お坊っちゃまが目の前にいた。
「良い台詞だったぞ」
「フフ、高祖母様のお言葉ですからね」
「人を愛すると人は弱くなるか。少なくとも俺はお前という存在を得て、天高く羽撃ける蝶へと生まれ変わることが出来た。お前がいるだけで俺は安らげる」
「もう、どうしたんですか?」
いきなり愛の告白のような事を呟くお坊っちゃまに頬を染めて見上げてしまう。私もあなた様のおかげで、生きる意味を手に入れましたから一緒です。