奈落の襲撃を回避することに成功したものの、マスター・バタフライ様とドクトル・バタフライ様の二人で押さえ付けなければ対等に渡り合えないほどに強くなっていた。しかし、あの奈落からも土の臭いがしていた。
つまり、あの奈落も傀儡ということになります。
その事に今更気付いたところでお二人に伝える術は無い。マスター・バタフライ様もドクトル・バタフライ様も携帯電話を持っていないのです。
流石に家庭用電話は蝶野家の物を使っているので使用法は分かっているとは思うのですが、やはり戦闘時に電話を掛けるのは良くない事です。
「さっきから何に悩んでいるんだ?」
「お二人に電話を掛けるべきかを悩んでいます」
「……安否確認するのは大事な事だ。しかし、今はおじいちゃんズではなく自分の身の安全を第一に考えておけ、瘴気の毒を完全に除去したわけじゃないんだ」
それは、そうですが……。
「まずは武藤の所に向かうぞ。おそらく奈落はお前を誘き寄せるために人質を取るか、お前の関係者を連れ去ろうとするはずだ」
「ッ、そんなこと絶対にさせません」
「そのためにも急ぐ」
そう言うとお坊っちゃまは背部の黒色火薬の羽の一部を爆発させ、さっきより加速していき、強烈な風圧から身体を守るようにお坊っちゃまの胸元に顔を埋める。
ドクンドクンと聴こえる心臓の鼓動の音に安心感を抱きつつ、風に混じって奈落の臭いを感じ、お坊っちゃまの身体を押し退けた瞬間、私とお坊っちゃまの間に閃光が走り抜け、再びお坊っちゃまに抱きつき、足元の住宅街に視線を向けると凄まじい威圧感を放つ真っ白な少年がいた。
この人は強い。
空中戦では確実に負けてしまう。
「奈落の知り合いか?」
「ふざけるな。わしが本物の奈落だ」
なにやら凄いことを言い出した男に戸惑い、お坊っちゃまを見るとお坊っちゃまも首を傾げて、目の前に立つ奈落を自称する少年に困惑している。
私も同じ気持ちでございます。
この少年の話を信じると三人の奈落がいる事になる。
少なくとも奈落を名乗る「彼」は善性を持った妖怪でしたが、この少年からは奈落よりも邪悪で凶悪な憎悪と殺意を感じる。ハッキリと言えば奈落とは思えないほどに感情の起伏が激しすぎるのです。
「生憎とお前の世迷い言に付き合う気はない」
「わしの言葉を世迷い言と申すか」
「お坊っちゃま、今は急ぎましょう」
「子供の相手は子供にしてもらえ」
最後にまた煽るように言葉を呟いたお坊っちゃまは、デュワッ!と叫んで更に高く羽撃き、少年の視線から私を守るように加速する。