武藤カズキと中村剛太のお見舞いを終えた帰り道。私はお坊っちゃまと一緒にビジネスホテルに向かって歩いています。
蝶野家はマスター・バタフライ様とドクトル・バタフライ様の苛烈すぎる攻撃で半壊しましたので、こうなってしまうのは仕方ないことです。
そう思って商店街を歩いていたとき、ふと周囲の違和感に気付き、お坊っちゃまに話し掛けようとした後ろに振り返るとお坊っちゃまは居なかった。
「お坊っちゃま?」
前を向いてもお坊っちゃまは居らず、奈落の出撃を警戒して蛮竜を呼び寄せようと片手を突き上げたその時、私の手に飛んできたのは蛮竜ではなく真っ白な鏡だったため、突然の出来事に判断が遅れ、この鏡が危険と判断するも私の身体が鏡面に映り、慌てて鏡を投げ捨てる。
「力が、抜ける!?」
ふらつき、今にも膝を突きそうになる身体を電柱に手を添えて堪える私の目の前に奈落の城で出会った髪も肌も服さえも白い少女が鏡を構えて佇んでいた。
「……貴女は、いったい…ッ?…」
私の問いかけに彼女は応えること無く鏡を私に向かって構えると全身の力が吸い取られるような感覚に襲われ、僅かに空気の流れが鏡に向かっていることに気付き、まだ動ける内に攻めなければ負けるという一心で彼女の構えた鏡を蹴り上げる。
「風刃の舞」
「なっ、くあぁっ!?」
しかし、私の蹴りは彼女の鏡を蹴る前に強烈な突風によって遮られ、全身を切り刻まれるような衝撃を受け、商店街の看板や露店の置き物を壊してタイルの地面に頭から崩れ落ち、地面に倒れ伏す。
「(な、何に飛ばされたの…風、神楽……?)」
「人間の癖にあたしの風を受けて刻まれないなんて随分と頑丈なヤツだね。まあ、神無に魂を半分も抜かれちったアンタに勝ち目は無いよ。大人しくしときな」
「なんでッ…!」
「なんで、ねえ?少なくともあたしの目的は心臓を取り返す事だよ。ったく。四魂の玉の次は女とは奈落のヤツも随分と気持ち悪くなったね。神無、アンタも長女ならあの気色悪いヤツに文句ぐらい言ってやりな」
「…………」
二人が会話している隙に店舗と店舗の間の路地に駆け込み、血を流す右肩を押さえて二人の攻撃を避ける場所、未だに訪れる気配の無い蛮竜に意識を向けていたとき、目の前に何かが這い出てきた。
「ああ、こんなところにも居たのか」
「……何者です?」
この気配はホムンクルスですけど。
こんなところに、なぜ蝶のホムンクルスな?
いえ、それよりも見覚えがある。
でも、そんなことって?
「────うそ、次郎くんッ?!」
思わず、後ずさってしまった。
何を、なんで、彼はお坊っちゃまに食べられていた。そうです、ホムンクルスになって生きているなんて事は絶対にあり得ない筈で……!
「凄いだろう?奈落ってヤツが僕を助けてくれた上にこんな素敵な力を与えてくれたんだ。ほら、こうして賛を簡単に押さえ込めるぐらい力もある?」
「……痛ッ、離して下さい」
「ダメだよ。賛は僕の物になるんだ」
お坊っちゃまと容姿は瓜二つでも邪悪な心根は本当に違いますね。でも、蛮竜も呼べず、力も満足に出せない私では彼を倒すことは出来ない。
次郎くんはパキパキと身体を作り替えて、巨大な蝶の姿に変わり、私を押さえつけ、私を捕食するために鋭く尖った嘴を持ち上げた私に突きつけてくる。
「……助けて、攻爵さん……」
そう呟いた瞬間、風が荒々しく爆ぜると同時に私の身体を抱き締める力強く誰よりも何よりも安心できる人の腕の中に私は包まれていた。
「任せろ。お前は誰にも渡さない」
「はいっ」
「また僕の邪魔するのかァ!!」
「邪魔はお前だ」
そう言ってお坊っちゃまは次郎くんを睨み付けた。