「ふむ、やはり力が弱くなっているな」
「……あの、手を握って押さえる理由は?」
手の指を絡み合う様に握ってきたお坊っちゃまに小首を傾げつつ、どうして私の身体を押しているのだろうと戸惑い、そうお坊っちゃまに問い掛けるも彼は答えること無く腰を抱き寄せられてしまう。
いつもと余り変わらない距離ですが、力が弱くなっている分、不安とお坊っちゃまに力負けするかも知れないという言い様の無い背徳感にドキドキして、思わずお坊っちゃまの頬っぺたをビンタしてしまいました。
「全力でもこれだけか」
「えっ、そんな……」
「……」
「お、お坊っちゃま?」
ゴクリと唾液を飲む音が聴こえ、ビクッと身体が跳ねる。不安げに「ひ、酷いことしないよね、攻爵さん」と呟き、お坊っちゃまを上目遣いで見上げると物凄く悩ましげに表情を変えて葛藤していた。
「……お前の回復を優先しよう。それに弱くなったお前を襲いたいという気持ちを抑えるのも難しい。どうすれば良いと思う?」
「武藤君と戦って下さい」
「ムッ。それもそうだな」
私がそう言うとお坊っちゃまはビジネスホテルの部屋をドアから出ていき、私は蛮竜を呼び寄せるために意識を集中させるものの、やはり何者かに阻まれ───いえ、誰かでも何者かでもありませんね。
おそらく犯人は私自身でしょう。
蛮竜をはじめとした強さの根底を担っているのは糸色賛としての血筋の方であり、此方に残っているのは僅かに法力や霊気を扱える程度の秋葉賛として私だ。
「(秋葉では蛮竜を呼び出すには足りない。お母様の薙刀ももう一人の私が持っているのか。あるいは白童子がそのまま持っているのかですね)」
そう考え込んでいるとドアをノックする音が聴こえ、本調子の私には劣るものの、まだ使える二重の極みを撃てるように構えつつ、ドアノブを捻って扉を開けると津村斗貴子がビニール袋を持って立っていました。
「相変わらず物騒なヤツだな」
「失礼致しました。どうぞ」
「ああ、すまないな」
「いえ、好敵手の訪問は嬉しいものです」
しかし、この状態で津村斗貴子と戦えるのかと問われれば私は素直に負けるとしか言えませんね。何故なら半分も力を出せない身体で相手に出来る程、津村斗貴子という私の好敵手は優しくないのである。
「パピヨンに話は聞いている。蛮竜を呼び出す事も出来なくなっているそうだが、今のお前にも扱える武器はあるのか?」
「護身用の薙刀であれば、こちらに」
私はスカートの裾を摘まんで持ち上げ、六本ほど飛び出してきた柄の伸縮する槍を見せると「お前のスカートは四次元ポケットか何かか!?」と怒られてしまいました。隠匿術はメイドの嗜みでございますよ?