「大丈夫ですか、私」
「えぇ、大丈夫ですよ。私」
もう一人の私の差し出す手を借りて、ゆっくりと立ち上がった私達と同じく血反吐を吐いていた武藤カズキも苦悶の表情を浮かべて立つと穂先の折れた槍に気付き、慌てて謝ってくれました。
刀匠に鍛えて頂いたものではありませんし。お母様とお婆様の集めている武具の一振りですから、新しく掘り出し物を見つけてお詫びするしかありませんね。
「さて禁書を渡すけど。白髪の賛は目隠しをして僕と待っていようか、流石に君の耳と目を使って此方を覗き見している粘着ストーカー妖怪に我が家の秘伝を教えるわけにはいかないからね」
「禁書を拝見できないのは残念ではありますが、こうして境様と戦えた事はとても嬉しく思います。それに私達は陰陽の関係ではなく、純粋な陽側の人間だと再確認できて私は満足です」
そう言うと白髪の私は目隠しを付け、糸色境の傍に静かに佇んで私と武藤カズキが禁書の中を拝見し終わるまで静観するようです。
「賛さん、これって」
「……流石は高祖母様ですね」
幾つもの私達では想像すら出来ない技術や技の項目も存在し、確かに奈落に見せるわけにはいかないものもある。ふとページを捲る手が止まる。
「(魂魄を奪う技?)」
ちょうど私と私の様に魂を二分割にされてしまった人間にとって都合の良すぎる技の項目に戸惑っていると「賛さん、これを使えば元に戻れるよ!」と言われ、ゆっくりと頷いてしまった。
───この技を使えば白髪の私は元通りになるものの、二度と現れない可能性もある。例え奈落に切り離された半身とはいえど今の肉体から、魂を分離して取り込める保証もあるわけではない。
「武藤君、私は倉の方を調べてみます。境様、私を連れて倉の方に行って参ります。もしものときは宜しくお願い致します」
「そうなる未来は無いよ。大丈夫さ」
そう言って私達を送り出してくれた糸色境の言葉を聴いて、私は白髪の私の右手を握って、倉の方……ではなく人気の少ない場所に移動する。
「……どうするつもりですか?」
「今はまだ分かりません。それでも私は秋葉賛として貴女の事を見捨てて魂を取り戻すなんて絶対にしたくない。どうにかしてみせます」
それこそ中国にあるという呪われた泉の秘境に赴いて、私達の現状を打開する方法を探すのもありですが、やはり二つの心を重ねて生きるしかないのでしょうか。
「全く秋葉の血はナヨナヨしていますね。ハッキリと言いなさい、私はお坊っちゃまと生きるために貴女の事を取り戻したいと」
「必ず、もう一度会いましょうね」
「えぇ、ずっと一緒に居ましょうね」
両手の手のひらを重ねるように合わせ、コツンと額をくっ付けると淡い光に包まれて彼女の魂が私の身体に流れ込んでくるのが分かった。
温かく力強い糸色賛の想いが伝わってくる。土くれと人に近い見た目の妖怪の亡き骸が崩れ、風化し、静かに風に舞って消えていく。
「さて、奈落を倒したら中国に旅行ですね」
その時までお休みなさい、もう一人の私────。