「この妖刀は妖気を吸う刀だ」
そう言うと刀の柄を両脇に構えた糸色境の動きが消えると同時に私と武藤カズキの身体に強烈な衝撃と痛みが叩き込まれ、血反吐を吐いて仰向けに倒れる。
なに、が?
「見えなかったろう。まあ、そういう風に動いて、二人が瞬きをする間に斬ったからね。それから、この刀は人を斬るために存在していない、妖怪を斬るために生み出された妖刀なんだよ」
カチャリと差し出された刀の柄には人の顔のようなものが見える。人面瘡にも見えるソレに視線を向けていると両目を見開き、私を見下ろしてきた。
「境様に一太刀をあびせようという心意気は認めよう。しかし、瞬きも見切れぬとは奈落を仕損じるのも致し方無し」
「左様、我らを振るうには値せぬ」
「刀が、喋った……!?」
余りにも現実離れした光景に戸惑う武藤カズキの呟いた言葉に私も同意することしか出来なかった。
糸色本家には様々な妖刀や霊力を込められた武具や器物の存在は知っていましたが、まさか言葉を発するものがあるなんて知りませんでした。
「我が名は邪紅刀、お主達の中に巣食うていた奈落の妖気を斬る際に吸い取った。お主達の感じる不調や疲労は無くなるであろう」
「そして、私達は清白。邪紅兄上と対を成す妖気を与え、使い手の強さを強める刀なり」
「まあ、戦国時代に生まれた彼らがどういう経緯で糸色本家に保管されていたのかは僕も知らない。彼らも語ることはないけどね」
邪紅刀と清白────。
確か禁書の武具項目にも記載されていた獣の槍や蛮竜と同等の強さを誇る大業物の妖刀だ。そんな代物を同時に二つも扱えるなんて本当に糸色境は強すぎます。
この世界には幾つ獣の槍や蛮竜のような超常の存在を切り裂き、砕く武器が存在するのでしょうか。奈落を倒したらお坊っちゃまと探して回るのも楽しそうですね。
帰ったら聞いてみましょう。
「さて、続きはするかい?」
「致しますよ、境様」
「オレもだよ、境兄さん」
「うんうん、若者は元気が一番だ。でも、やっぱり僕としては昔みたいに賛にも『境お兄ちゃん』と呼んで欲しい気持ちもあるんだよね」
「そ、そんなことを言った記憶はありません!」
にっこりと笑って名指しで昔の呼び方をお願いしてきた糸色境にビックリして、顔を赤らめながら蛮竜を振るって強引に彼を間合いの外に弾き出す。
「大丈夫だよ、賛さん。まひろも未だにオレの事はお兄ちゃん呼びだからさ!」
「そういうことでは……」
今ほど強くなくて泣き虫だった頃の私に戦いを教えてくれた尊敬する人ではありますけど。お母様やお婆様は「ああいうのは腹の中にどす黒いものを抱えているから隙を見せないように」とも言っていましたね。