結局、一本も打ち込めることなく糸色境の「今日はもう満足したよ」という一言で私達の勝負にすらなっていなかった戦いは終わりを迎えました。
やはり、糸色境は強すぎますね。───ですが、いずれ彼を倒して最強のメイドになるのは私です。それに糸色本家の伝統的な仕来たりまで数日です。
「イテテッ。流石に斬られ過ぎたね」
「私は全て峰打ちでしたよ。フェミニストを気取るのであれば私の二重の極みも蛮竜の一撃も素直に受け止めて頂けると嬉しいですけれど」
私はそう言って武藤カズキの身体に刻まれた刀傷や打撲傷の治療を行いつつ、やはり私と違って大きく分厚い筋肉を羨ましく思う。
体質的な問題もありますが、私はどれだけ鍛えても筋肉は表立って備わっているようには見えず、二の腕に力瘤は現れず、腹筋も割れていないプニプニです。
どうやったら筋肉を得られるのでしょうか。
「終わりましたよ」
「流石に、それはしないと思うけど。ありがとう」
チョキンと包帯を縦に切ってテーピングではなく腕を一周するように交差させて、動きやすいように傷口は消毒して縫合しています。
しかし、奈落より糸色境の方が強く思える。
「あ、そうだ。賛さんに聞きたいんだけどさ」
「はい。なんですか?」
「奈落の好きだった糸色家の女の人って、ひょっとして景さんだったりするのかな?」
「……有り得そうではありますが、高祖父様の性格と態度を考えると彼女を危険な場所へお連れするのは到底思えませんし。下手したらお婆様や私、貴方のお母様とまひろさんも可能性も浮上してしまいますよ?」
「母さんもまひろは薙刀は今も使えるけど。最後に見たのは物干し竿扱いされる薙刀だったし」
私達の家系に伝わっている武具や器物は最低でも数百万の価格はすると予想できるのですが。まあ、その薙刀には妖怪やホムンクルスの血を浴びず、穏やかな日差しを受ける事を享受して頂きましょう。
「で、物は相談なんだけど。賛さんの蛮竜を境兄さんと戦うときに貸してくれないかな?ひょっとしたら隙を作れるかも知れない」
「あの人に隙なんてありませんよ。私達が瞬きをする一瞬の間に彼の脳内は数千回のシミュレーションを行い、彼の行動を含めて最高最善最適最新の動きを行い続け、私達が動く頃には彼は百を越える動作を行える」
「……だよなあ……」
高祖母様の場合は能力を活かす身体では無かったため当主に成ることはなかった。
しかし、彼女の誕生を皮切りに世界各地で裏表の世界に変革は起こり、妖怪、ホムンクルス、フランケンシュタイン、御伽噺の住人、