作務衣に着替えた武藤カズキと着流しのまま夜の桜をお座敷に座って眺めている糸色境の二人の傍に近付く。二人より着付けや装飾品に至るまで凝りに凝った女中の方々に着せ替え人形にされていましたから遅くなったのは仕方無いです。
「揃ったね、賛」
「賛さん、すっごく綺麗だよ!」
「ありがとうございます。でも、それは津村さんに言ってあげるべき言葉ですよ?」
そう武藤カズキに伝えながら草履を脱いで、お座敷の下座に位置する武藤カズキの隣に正座して座り、朱染めの盃でお酒を呑む糸色境を見据える。
禁書を読むためにやって来たものの実践のような稽古を繰り返すばかり。ただ、禁書を読んで直ぐに使えるほど現実は甘くありませんから彼との稽古は役立っているのもまた変え様のない事実です。
「呑むかい?」
「生憎とまだ未成年です」
「オレも同じく未成年」
「そうか。残念だけど、機会は沢山ある」
透明なお酒が盃の中で波紋を起こし、ゆっくりと飲み干した糸色境は静かに夜の空を舞う桜の花びらを眺める最中、ポツリと何かを呟いた。
「しかし、奈落という妖怪は厄介だね。もっとも僕が戦えば直ぐに終わる話だけど。そうしたところで彼と糸色の縁を断つことは出来ない。……彼を討てるのは君達だけだろうね。邪紅刀」
「御意。蛮竜、某の前に参られよ」
コトリとお座敷の真ん中に置かれた邪紅刀の言葉に応えるように飛来し、お座敷の床を突き破る前に柄を掴んで受け止める。熱いッ、今まで感じたことのない熱が蛮竜から伝わってくる。
「汝の能力、御返し致す!」
「なッ?!」
突如、刀身を現した邪紅刀の攻撃を蛮竜で受け止めた瞬間、蛮竜の刀身が赤く染まり、刀身が金剛石の姿に変わっていく。
……まさか私がお婆様の金剛槍破を使えなかったのは認めていなかったからではなく、別のものに能力を譲渡して預けていたということなのですか?
「今の奈落なら、その蛮竜で倒せる」
「……ありがとうございます」
「尤も使いこなすには時間を労するだろう。今日はもうお休み──それにカズキにも話したいことと渡したいものがあるからね」
その言葉に小首を傾げつつ、男の人には隠したいことが多いとお母様も言っていましたから、そういうものなのだろうと思ってお座敷を降りて二人の傍を離れる。
お坊っちゃまにも隠したい秘密はあるのでしょうか?と思いながらも金剛石の刀身に生まれ変わった蛮竜を見上げる。私にお婆様の力を扱いきれるのか。
やはり、少しだけ不安になりますね。