奈落と戦うときに使えそうな武具を一通り集めたものを担いで正門の前で糸色境に一礼し、私は糸色本家を出ていく。もっとも武藤カズキはまだ稽古を続けるそうですが、彼の成長速度なら直ぐに戻ってくるでしょう。
「遅かったな、賛」
「お坊っちゃま、何故此処に?」
「俺が迎えに来るのは当然だろう」
「……フフ、ありがとうございます」
黒色火薬の武装錬金「ニアデスハピネス」を巨大な蝶に変えて私を抱き上げたお坊っちゃまの足元に荷物を置き、久しぶりに触れ合えるお坊っちゃまの温もりを確かめるように寄り添う。
やはりこの人のお側が一番落ち着きます。
「しかし、双子は終わりか」
「残念なんですか?」
「まだアイツともデートをしていないからな」
「成る程、では奈落を倒した後に中国へ行きましょう。性別を変えたり、パンダ、ネコに、ブタさんにもなれる呪われた泉があるそうです」
「ホウ。ブタになった賛か」
何故、そこでブタをチョイスしたのかを問い詰めたいところですけど。この様な高所でお坊っちゃまを問い詰めて落ちてしまったら大変です。
まあ、あとで問い詰めますがもう一人の私もお坊っちゃまにそう言って貰えて嬉しいと思っているでしょう。ですが、お坊っちゃまの一番は例え同一人物であろうと、この私でございます。
「賛に一つ聞きたいことがある」
「はい、何でしょうか?」
「本家に行くからと言って5日もお前と触れ合えずに我慢していた男の気持ちを考えたことはあるか?今日、偶々偶然にお前を迎えに来たわけないだろう」
「んッ…こんなところで…!…」
いきなり私の首筋に噛みついて血を吸い始めたお坊っちゃまを怒ろうとしても血を吸われるのが久しぶりで、上手く身体に力が入らず、首筋を這う舌のゾリゾリとした感覚に身体を震わせてしまう。
「(けど、これも愛情表現ですから…♪︎)」
ゴクリと血を呑み込む音が聴こえ、ゆっくりと牙を突き立てた傷痕を舐めるように舌を動かしたお坊っちゃまに視線を移すと笑みを浮かべていた。
「やはり甘く身を焦がす美味さだ」
「私以外で吸っちゃダメですよ?」
「白髪の賛も同じことを言っていたが、アイツは進んで首筋を俺に差し出していたぞ。賛、本当はもっと吸われたいんだろう?」
もう一人の私だから他人とカウントするわけにはいきませんから仕方無いですけど。同一人物でも浮気と思えば浮気になるのでしょうか。
お坊っちゃまに問い詰めたいことが増えていきます。やはりお坊っちゃまのお側を離れるのはダメですね、もっと長く一緒に居たいです。