ゆっくりと全身の筋肉を解すようにストレッチを行う私を見つめる視線に溜め息を吐く。お坊っちゃまは私の事を心配しすぎです。
心配してもらえるのは、嬉しいですけど。
ストレッチを終えて蛮竜を手に取って構える。通常の刀身、結界破りの赤い刀身、そして糸色境に返して頂いた金剛石の刀身へと変える。
やはり金剛石の刀身に変えると蛮竜の纏う妖気は倍増し、ハッキリと言えば一度か二度使えば私は力尽きてしまう可能性も有り得る程に強力だ。
「賛、的は必要か?」
「いいえ、金剛槍破の試しは屋外で致します。魍魎丸の放った金剛槍破より規模と破壊力を上回っていない可能性もありますし。なにより新築の家を壊すのは流石に申し訳無いですから」
「それもそうか」
私の言葉に納得したお坊っちゃまを避け、素早く蛮竜を振るう。しかし、以前より重さと強さを増してしまった蛮竜を扱えず、私は蛮竜を地面に落としてしまった。
やはり金剛石の蛮竜を振るうには私も筋肉をつけなければいけないですね。
「お坊っちゃま、どうすれば筋肉は付きますか?」
「毎日のトレーニングを思い返してみたら分かると思うんだが、そこまでして筋肉を付けたいのか?俺としては小柄で柔らかい賛の方が好きなんだが」
「金剛槍破を撃つために大鉾を押さえる力を付けたいだけです。あと太っているように思われる事は言わないで貰えますか?」
「ムッ。すまない」
肩や首筋を噛んで血を吸うお坊っちゃまからすれば柔らかい身体の方が血を飲みやすいということは分かっています。でも武藤カズキやお坊っちゃまを見ていると、もう少しだけ筋肉が欲しくなります。
津村斗貴子もきっとムキムキです。
「多分、違うと思うぞ?」
「そんなっ、お坊っちゃまは私と渡り合える津村さんがヒョロヒョロだというんですか!?」
「武藤に聞け。そういうことは。しかし、金剛石の蛮竜を振るのに賛の身体が持たないのか。お前のお婆ちゃんは体格も大きかったからな」
「……はい。おそらく歴代当主で蛮竜の金剛槍破を使えたのは数少なく、況してや本来の力を扱えた人は数える程しかいないのでは?と私は考えています」
糸色境は金剛石の蛮竜を使えていたでしょうが、私の結界破りの赤い蛮竜は知らなかった。少なくとも結界破りは私だけが手に入れた力ではある。
奈落の結界を断つ赤い刀身と金剛石の蛮竜を同時に使えれば良いけど。そう簡単に二つの能力を同時に使えるほど蛮竜は容易い妖器物ではありません。
「どうしましょう」
「もう金剛槍破を試せば良いだろう。そうすればお前に金剛石の蛮竜が使いこなせるのかも分かる筈だ、もしも使えなければ使えるようになればいい」
「……フフ、そうですね」
クヨクヨするより前を向いて強くなりましょう。