奈落の身体は見事に粉々になった。
これで終わりとそう思って、ほうっと息を吐いた瞬間、瘴気と邪気まみれの触手の塊が現れ、周囲の木々や土を腐敗させて、のっそりと動き始めた。
「タタリ神みたいだな」
「逃げますよ、お坊っちゃま!」
「ムッ。坂道だ、お前の走りなら行けるな」
「当然でございます!」
お坊っちゃまの事を抱き上げ、蛮竜を担いで道路を駆け降りていく。背後から耳の奥に纏わりつくような、ベトベト、ヌチャヌチャッという粘着性の強い音が聴こえる度、気持ち悪さに身の毛も弥立つ思いです。
「まっ、て、儂の、ものだ…!」
「だそうだぞ」
「いやです!シンプルに気持ち悪いのでお断りします!そもそも何世代も続く愛憎の果てを私にぶつけようとするのはお門違い……でもありませんが、この世で私が愛しているのは蝶野攻爵さんだけです!」
「ハッハッハッ。残念だったな、奈落!」
私の宣言に気分を良くしたのか。
お坊っちゃまは頭だけを触手の塊から出して私達を追い回す奈落に語り掛け、黒色火薬の武装錬金「ニアデスハピネス」を飛ばして爆破を繰り返す。
「儂の物に、ならぬのならばッ…!」
「賛、怒ったぞ。何故だ?」
「お坊っちゃまが煽るからです!」
このまま麓まで行ってしまえば住宅街や商店街、学校の近くになってしまう。そうなる前に金剛槍破を撃って奈落の事を倒さなければいけない。
───けれど。その一瞬の隙を作るには奈落との距離が近すぎて金剛槍破を放つために必要な溜めを作ることが出来ない。だからこそ、この先のカーブで一気に仕掛けるしか勝つ方法はありませんね。
「飛びます!」
ガードレールを踏み台に飛び上がり、お坊っちゃまを上空に放り投げて蛮竜を両手で握り締め、金剛石の大鉾に刀身を変化させる。
お婆様、私にお力添えを────。
「金剛ッ……槍破!!!」
空を舞うおかげで全身に感じていた衝撃は分散され、此方に向かって手を伸ばす奈落もまた最高の位置に居たため蛮竜が撃ち出した数百の金剛石の槍は奈落の身体を貫き、彼の全身を破壊していく。
「おのれ、またしても…犬夜叉め…」
ゆらりと瘴気の渦が立ち込め、奈落が消える。
……またしても逃げたしたね。
「いぬやしゃ?」
「初代様のご友人です。何でも蛮竜や獣の槍と渡り合える天下三剣の一振りである鉄砕牙を持っている赤衣の妖怪だそうです」
「ふむ、あとで調べてみるか」
落下する私を抱き止めてくれたお坊っちゃまに犬夜叉の事を話す。とは言ったものの、私は彼について知っていることは伝説の妖刀を持っていることだけです。