金剛槍破を受けて逃げた奈落を追わず、私とお坊っちゃまは中腹まで綺麗に弾けてしまった銀成高校の裏山を購入し、実験施設を建てようと提案してきたマスター・バタフライ様とドクトル・バタフライ様の大胆すぎる提案を電話越しに聴いています。
「まあ、後はおじいちゃんに任せれば良いか」
「そう、ですね…」
「おっと倒れるなら俺の腕の中にしておけ。しかし、流石に連続で使うのはお前でも難しいとなると金剛槍破を主力とした戦闘は避けるべきだな」
「すみません。ご迷惑をお掛けします」
ふらつく私を抱き止め、優しくお姫様抱っこしてくれたお坊っちゃまに感謝と謝罪の言葉を言いつつ、全身に重いものがのし掛かるような気だるさに深く大きな息を吐いてしまう。
金剛槍破は奈落に通じていた。
そして、おそらく金剛槍破は白面の者の討伐に参戦していたという宝石の大妖怪───宝仙鬼の得意とする奥義であり、お婆様は宝仙鬼を師事していた可能性も大いに有り得るということです。
糸色本家に赴いたときに書物の幾つかを読んだおかげで蛮竜に関する事も多く知れました。
……ただ、禁書の武具項目に綴られていた蛮竜のページは意図的に破り裂かれていた事を考えると、まだ金剛槍破には先があるのではないかと思う。
「考え込むのは良いが先ずは休むことに集中しろ。お前が倒れたら俺は悲しいからな」
「フフ、倒れませんよ。奈落を倒して私はお坊っちゃまと中国に旅行するんです。でも、これは婚前旅行というものになるのでしょうか?」
「ムッ。確かに気になるな」
「お母様に聴きますか?」
「いや、お前の母親は未だに俺にマスクを外せと五月蝿くて会うのは苦手だ。やはり年老いた人間は頑固になりやすいのだろう」
そう言って私をお姫様抱っこして歩き出すお坊っちゃまの言葉を否定しながらもお母様の頑固なところは良く知っているので否定するのも難しいです。
───ですが、お母様は優しい人です。
「……ところで何処に向かっているんですか?」
「休める場所だ」
「寄宿舎なら逆方向ですけど」
「ハッハッハッ」
いきなり笑ってどうしたのでしょうか?と小首を傾げながらお坊っちゃまの腕の中にいる私の手に握られていた蛮竜が激しく鼓動した。
「……エッチなのはいけません」
「チッ。主人に逆らうのか」
「蛮竜は私のものですから」
そう言うと不服そうにお坊っちゃまは銀成高校の寄宿舎へと歩く道を変えて、マスター・バタフライ様達のお迎えが来るまで待機できる場所へと向かう。