蛮竜を担いで魍魎丸の逃げた先を予測して追い掛けていたその時、魍魎丸の身体に入っていた赤ちゃんを取り込んでいく奈落を目撃してしまった。
「同化しようとしているのか?」
「やはり、あれが奈落の心臓だったのか!」
お坊っちゃまと津村斗貴子の声で私達の存在に気が付いた奈落は狂気的な笑みを浮かべ、赤ちゃんを取り込む姿を見せつけるように此方に身体を向けてきた。
いえ、私とお婆様に向けている?
「久し振りだな。糸色妙」
「えぇ、お久し振り。白面の者の大戦以来の再会になるけど、とっととあの世に帰って貰える?私は孫や娘、家族と楽しく穏やかに過ごしていたのよ」
そう言うとお婆様の握り締めていた含牙戴角の刀身は黒く染まり、お母様の放った冥道残月破より規模は少ないけれど。大量の冥道残月破を撃ち込み、奈落の身体を削り取るように吸い込む。
何よりお婆様の纏う気迫の強さに身体が滾り、戦いたいという欲求の昂りに白髪化が早まり、毛先から付け根まで一気に白く染まってしまった。
それに、いつもより臭いと音が聴こえる。
「馬鹿な、変化だと……!?」
「……んっ、頭がムズムズします」
海賊帽子を取って髪の乱れを整えようとした瞬間、私を見つめて驚愕する視線に気づき、小首を傾げながら「どうかしたのですか?」とお坊っちゃまに問いかける。
「触った方が早いな」
「んッ、いきなり耳を触らないで下さい!」
そう言って頭を押さえた瞬間、私は違和感に気づいてしまった。耳が、頭の上に生えている。モフモフした毛並みの良い動物の耳が、何故?
「まあ、犬耳は今は良いでしょう」
「賛、狐の耳だ」
「……狐耳は今は良いでしょう」
いつもより身体に流れる血の熱さも戦いたいという想いも何倍にも昂って、身体の中で渦を巻き、奈落を倒したいという気持ちが溢れてしまう。
「お婆ちゃん、あれって」
「妖怪変化。みんなには内緒にね」
私の後ろで話すお婆様の言葉に納得すると同時に嬉しさが溢れ、ホムンクルスにならずともそれだけ長くお坊っちゃまと一緒に過ごせる事を喜ぶ。
あとは奈落を倒せば大団円です!
「お坊っちゃま、行きましょう」
「狐耳のお前も良いな。あとで首輪を買っておこう」
「私の孫に不埒な真似をするんじゃないよ!」
お婆様の怒声にビックリしながらもお坊っちゃまの腕の中に飛び込み、空の見える砕けた天井を突き破り、まだ完全に奈落に取り込まれていない赤ちゃんに向かって蛮竜閃を叩き込み、奈落の身体を肉塊の床に撃ち落とし、二度目の蛮竜閃を放つ準備を整え、私達は地面に向かって飛び込んだ。