遂に奈落を倒す事が出来たけど。
彼もまた何かに取り憑かれた存在だったのでしょう。
しかし、奈落が今際の際に呟いていた「儂の、儂だけの糸色オギャバブランドの野望が潰える…!」という言葉の意味はよく分かりませんね。
あとでお婆様にお聞きしましょう。
「……お婆様、この耳はいつ治るのですか?」
「さあ、巓に聞いてみなさい。あと話すときはお姫様抱っこじゃなくて普通に立って話して貰えるかい?見上げるのは少し肩と腰に来るよ」
「申し訳ありません。お坊っちゃま、降ろし……なんで私の耳を噛んでいるんですか?」
「ムッ。狐の耳が目の前を動いていたから、つい噛んでしまっただけだ。他意はない」
ちょっとだけ湿った左耳をハンカチで拭きつつ、お婆様に一礼してお母様を探しに行こうと踏み出した瞬間、何本もの髪の毛の柱が地面を破壊し、お母様をお姫様抱っこして足場になっているお父様が登ってきた。
「賛、無事で良かったわ」
「ハハハ、僕達の娘だからね。ぶえっ!?」
「……お父様とお母様も無事で良かったです」
気が付けばお二人に抱き着いて、そのまま押し倒してしまっていた。もしもお二人に何かあったら、きっと奇が悲しんでしまうから本当に良かったです。
「あっ、そうだ。お母様、オギャバブランドって知っていま「賛、あの変態が貴女にそんな下劣で下卑た事を教えたのね。やはり、あの変態と結婚するのは取り止めにした方が」……そこまでダメな言葉なのですか?」
「僕に聞かないでね。お父さん、まだお母さんと離婚したくないから教えることは出来ないんだ。やってみたい気持ちはあるけど」
「あなた」
「はい。すみません、黙ります」
お母様も愛しているのにお父様に少しだけ強く当たってしまうのはツンデレというモノだからだと奇が言っていましたけど。好きなら好きと伝える方が楽しくて、嬉しい気持ちになるのに不思議です。
「それにしても賛に出ちゃったか、耳」
「私の血の影響ね。可愛いわよ」
「ありがとうございます。それで、これはどうすれば治るのでしょうか?」
「自力では治せないの?」
「はい、お母様」
いきなり私の仮面を外して頭を撫でるお母様の手付きの優しさに安心しながら、髪の毛に包まれていると聴こえる声の位置が代わり、耳に触れていた手の感触が綺麗に消えてしまった。
完璧に人間の耳に戻りましたね。
「待て、今のは白面の者の…!」
「矮小な
そう言って此度の大戦の援護に駆け付けてくれた烏天狗の妖怪を睨み付けるお母様の姿が、ほんの一瞬だけ真っ白で綺麗な狐に見えた。
もしもお母様も狐ならお揃いですね。