お坊っちゃまと分かれ、私達は銭湯近くに建つ喫茶店に入店している。しかし、改めて考えると随分と久しぶりに会うものです。
私はエスプレッソを、津村斗貴子はホットミルクを、武藤まひろと早坂桜花は私と同じエスプレッソを注文し、銭湯に行った彼らを待っている。
「えと、賛お姉ちゃんだよね?」
「はい。合ってますよ、まひろさん」
「単刀直入に聞く。お前と武藤兄妹の関係は?」
「私と武藤君達は再従兄弟ですよ。まあ、彼はこの仮面を外しても気付きませんでしたけど。やはり男の子同士で遊んでいた影響でしょうか」
従兄弟は両親の兄弟姉妹。再従兄弟は祖父母の兄弟姉妹であり、私はお婆様の孫、武藤兄妹はお爺様の孫に当たります。
血筋としては糸色本家の家督を継ぎ、サガラ・トレーディング・カンパニー本社を経営するお祖父様が本家という扱いになります。まあ、今更本家分家など言い争うつもりはありませんけど。
「あらあら、どうしましょう。何だか私だけここにいるのが場違いですね」
「いや、気にするな。むしろ仲裁役として居て貰えると私は非常に助かる」
「でも、本当に久しぶりだよね。賛お姉ちゃんは従姉の中でも凄くて、色んな事を一緒にやってくれて、最後に会ったのは小学生の頃だっけ?」
「その時は既にお坊っちゃまと一緒に生活していましたから。それに、まひろさんも大きく……本当に大きくなりましたね。羨ましいです」
目測160cmを越える身長もそうですが、その大きな胸も大変羨ましい限りです。私は153cmですし、その大きさは本当に羨ましいです。
……本当に羨ましい。
「えっ、お姉ちゃんが言ってた大好きな人ってあの変態さんなの!?」
「そうですよ。あと変態さんはお坊っちゃまが喜んでしまうので止めて下さい」
「「「…それで喜ぶんだ……」」」
「まあ、話は此処までに致しましょう。津村さん、視認二名、例の物を所持している可能性はありません。ここは私が排除致しますが?」
「……例の離反組か」
エスプレッソを飲み終えたカップを置き、此方に向かって来る中華系の服装の目立つ二人組。早坂桜花の反応を見るに、彼らも会ったことのある離反組ですか。
しかし、これは少々不味いですね。
「核鉄を寄越せぇッ!!」
「なッ、時と場合を考えろ!」
「わ、わっ!?なになにぃっ!?」
「まひろさん、落ち着いて下さい。アレは隣県で有名な不良です、おそらくは番長だった津村さんを倒すためにやって来たのでしょう!」
「斗貴子さんが番長!!」
私の説明に直ぐに納得してくれた武藤まひろの純真さに早坂桜花は「あらあら、どうしましょうか」と呟きながら鞄に手を添えている。
まだ、貴方達は手出し無用です。
「着いてこい!目当ての物は私が持っている!」
そう言って二人を引き連れて行こうとする津村斗貴子を追う二人組のホムンクルスの一体は私達の事を見下ろし、ヨダレを垂らしている。
「柔らかそうな肉が、こんなに」
「……まひろさん、耳を塞いで目を瞑って下さい。早坂さん、少し派手に動きますが、止めは貴女の一撃でお願い致します」
「えぇ、分かったわ」
そうやり取りしていた私達に向かって抜き手を繰り出してきたホムンクルスの腕を蹴り上げ、爪先で二重の極みを決める。靴を履いている分、破壊力は伝わり難いのが難点ではありますが、脚は腕の数十倍の破壊力をもたらす優れた部位でもあるのです。
「イデェッ!?」
「痛いのは直ぐに済みます。ごゆるりと、空の旅に行って……いえ、私の従妹を狙ったんだ。その臓物が炸裂する痛みと共に怯え竦み、死ねッ!」
ホムンクルスの首を掴んで押さえつけ、二重の極みを何度も身体に撃ち込み、気管を握り潰すつもりで締め上げているため悲鳴は上がらず、人間の受けきるキャパシティを越えたダメージに噴血したホムンクルスを空に向かって無造作に投げ捨て。
刹那、彼の章印をエネルギーを矢に変えた一撃が貫き、完全にホムンクルスは消滅する。やはり武装錬金は強力ですね、私は要りませんけど。
「糸色先輩って敬語以外も使うんですね」
「時と場合によります。まひろさん、もういいですよ」
ポンポンと彼女の頭を軽く叩いて知らせてあげると「なんか似たことがあったような気がする」と呟くので、しっかりと「子供の頃にオバケを見たときのアレですか?」と誤魔化しておく。