私とお坊っちゃまはLXE創設者の親友であり、人間とホムンクルスとは違う第三の存在と呼ばれるヴィクター・パワード様を癒やす修復フラスコの向かう先、銀成高校へと向かう準備を始めている。
十全な準備を終えるためには大量のエネルギーを必要とし、健康的な若者のエネルギーは効率的とマスター・バタフライ様は仰っていますが、実際は若者を狙った離反組を呼び出す作戦も兼ねているのです。
「お坊っちゃま、準備は終わりました」
スルリと襟元のリボンとボタンを外し、髪の毛を一房に集めて首筋をお坊っちゃまに差し出す。これはホムンクルス化して以降、激しい食人衝動はありませんが、万が一を考えて私の血液をお坊っちゃまにお渡ししている。
「賛、もっと此方に寄れ」
そう言うとお坊っちゃまは私の小さな身体を抱き寄せ、その鋭い八重歯を首筋に突き立て、噛み、チクリと甘く蕩ける様な悦楽を私に与えてくれる。
「んッ…ふあっ…」
「…やはりお前の血は甘く豊醇な味わいだ…」
「ひっ、んんッ…!…」
ベロリと噛み傷を舐めるお坊っちゃまにされるがまま、数分、十数分と抱擁を交わして、ようやく終わる頃には私の身体は恥ずかしさと甘い快楽に耐え兼ねて、どうしようもなくポカポカとしてしまう。
「……さて準備は整った。今日、俺とお前の羽撃きを武藤カズキと津村斗貴子に見せてやろう」
「は、はい…」
お坊っちゃまの抱擁に名残惜しさを抱きつつ、ボタンを閉じてリボンを結び、蝶のブローチを襟元に着けてLXE本部の通路を歩いていたその時、今まで出会った覚えの無い集団が通路の真ん中に立っていた。
いえ、よく見れば分かりますね。
「ムーンフェイス様にしては月面が鮮やかな黄色ではなく淡い灰色ですが、そのご様子から察するに離反組のムーンフェイス様ですね?」
「ム~ン!ご名答、流石は糸色賛だね!」
「俺の羽撃きは誰にも邪魔はさせん!」
月牙を構えるムーンフェイス様を一人だけ残して、29人のムーンフェイス様が突撃してきた瞬間、お坊っちゃまが蝶・素敵な一張羅の股間部位に手を差し込み、激しい吐血を繰り返しながら武装錬金を発動した。
───刹那、強烈な爆音と爆風が起こる。
「ひゃあっ!?」
突然の出来事に慌ててスカートを押さえつつ、お坊っちゃまに再び視線を向ける。艶やかな黒の蝶の羽、漆のように黒く、夜空の闇を連想させる美しい羽を宿したお坊っちゃまが其処に佇んでいた。
「嗚呼、暫く忘れていた。これが臨死の恍惚だ…!」
その姿は余りにも神々しく、恐ろしく美しかった。