一通りホムンクルスを倒して屋上を目指して歩いていた次の瞬間、全身の力が抜けるような感覚に襲われ、蛮竜を階段に突き立てて転倒を阻止し、少し駆け足で階段を駆け上がって屋上の扉を切り裂く。
其処に佇んでいる男に意識が吸われる。
蛍火色の長髪、赤銅色の肌、筋肉の鎧を纏う2mを越える巨体を有する男が武藤カズキと津村斗貴子の目の前に立ち、静かに見下ろしている。
「……随分と懐かしい気配だ。百年前に会った彼と彼女の子孫が二人も私の目の前に立っている」
「貴方が、ヴィクター・パワード…」
「やめろォ!」
「それは無理だ。エネルギードレインは私にとって呼吸と同じ、止めたければ私を倒し、殺す以外に止める方法はない」
突撃槍を振るってヴィクター・パワードを攻撃する武藤カズキを軽く撫でるように橫薙ぎに振るった右拳で殴り飛ばす彼の圧倒的な強さに心が震える…!
戦いたい。
戦いたい。
戦いたい…!
「ヴィクター、私と戦いましょう…!」
「蛮竜、君が後継者か」
「賛さん、コイツはオレが止める!!」
「ならば一緒に、津村さんもです!」
「この突撃馬鹿共めッ!」
私と武藤カズキ、津村斗貴子は同時に駆け出し、ヴィクター・パワードに鋭い剣先を突き立て、三点同時の斬撃を避けることも防ぐこともせず、ヴィクター・パワードは無造作に拳を薙ぐ。
「くうッ!?」
二人の前に割り込み、巨拳を蛮竜で受ける。
圧倒的な膂力。純然たるパワーで放たれる拳に刀身が軋み、鈍い音が響き渡り、屋上の床がひび割れ、真後ろに向かって私は吹き飛ぶ。
「賛さん!」
「ヤツなら無事だ!前を向け、カズキ!!」
バルキリースカートを操って撹乱と高速駆動の
「面倒だ。一撃で葬ろう……武装錬金!」
黒い、核鉄?
そんなものが存在するのかと津村斗貴子に視線を向けようとしたその時、駆け出す武藤カズキが視界の端に映り、嫌な予感に襲われ、気が付けば私は彼の身体を無理やり後ろに投げ飛ばしていた。
「ぐッ…あああぁ゛あ゛ぁ゛あ゛っ!!」
凄まじい重力に押し潰され、コンクリートにひび割れを起こしながら倒れ、ミシミシと鈍い音が全身に響く中、お坊っちゃまが口にしていた「臨死の恍惚」の意味と感情が私にも理解できた。
「二重の、極みィッ……!!!」
「ヌッ、うぅんっ!!?」
「ゲホッ……フフ、叫ぶと力が乗りますね」
「成る程、万物必壊の極意か。久しく忘れていた痛みを思い出せた」
「理外の怪物だろうとこの世に生きとし生ける生き物は分子の塊です。家伝秘奥DOUBLE EXTREME。───この二重の極みは万物必壊でございます」
にっこりと微笑んで私はヴィクター・パワードに語り掛け、ゆっくりと拳を握り締めて構える。
「ああ、お坊っちゃま、どうしましょう。私、もう強いとかそういう次元の相手ではないのに、どうしようもなく心が昂っております!!」
もっと心の震えを感じたいです!
「止めておけ。君は友の子孫だ」
「その通りだ。Lady糸色、今ここで君と父の友が殺し合うのは我々にとって不都合だ。ヴィクター、父の友よ。今は共に移動しよう」
…………マスター・バタフライ様の言葉で冷静さを取り戻し、血濡れた顔を拭うために仮面を外し、砕けた眼鏡を取ってケースに収納する。お坊っちゃまのほうも終わっている様ですね。
「津村さん、また引き分けですね」
そう言って私は空を飛ぶお坊っちゃまに手を伸ばし、抱き上げて貰う。うん、さっき感じた心の昂りより、お坊っちゃまのお傍にいる心地好さが良いです。