「賛、気づいているか」
「はい。何やら不穏な気配を感じます」
BBQを楽しむ武藤カズキ達から離れて海面を双眼鏡で観察していたその時、ポツンと波打つ海面の上に立つ人影を見つけ、もしやと思って海水を洗い流すために設置された蛇口を捻る。
「……おお、やはり糸色様か」
「知り合いか?」
「おそらくお婆様が話していた海坊主さんだと思います。しかし、海の妖怪は平和に暮らしていると聞いたのですが?」
「嗚呼、新しいワダツミに妖が取り憑き、人を喰らおうとしているのだ。どうか今一度我らに力をお貸し頂けるだろうか」
そう言って頭を下げる海坊主の言葉に、私は「分かりました。出来る限りの助力を行います」と告げ、水滴の中に戻っていく海坊主を見送る。
しかし、困ったことになりましたね。
私は泳げませんし、船酔いもします。
「武藤には話すか?」
「海坊主さんが話すと思います」
お坊っちゃまから少し離れ、海面に二重の極みを撃つ。海水は当然として、やはり水中で二重の極みを撃つのは困難になりそうですね。
蛮竜を使うにしても波酔いしてしまった私では扱いきれるのかも怪しいところですが、お婆様にも出来たことが私に出来ないわけがありませんからね。
何とかしてみせましょう。
「賛、ワダツミとはアレか?」
「……わあ、おっきいクジラ…」
海面に身体を叩きつけるマッコウクジラよりも大きな海洋生物に気の抜けた言葉を呟いてしまい、慌てて口許を覆ってお坊っちゃまを見る。
ニヤリと笑って私を見下ろす彼の顔はさっきの呟きを聞いていたとハッキリと物語っており、このままでは私の恥がお坊っちゃまの記憶に残り続けてしまいます。
「えいっ!」
「おっと、残念だったな。お前の考えはお見通し、何年一緒に居ると思っているんだ。あと二重の極みで記憶を抹消しようとするのはやめろ」
「……誰にも喋りませんか?」
「お前は俺のものだからな。誰彼に言い触らしたりするものか、俺がどれだけ楽しみ、溺れさせ、味わい尽くして尚もお前は飽きないだろうさ」
なんだか意味深な言い方をする彼の言葉に小首を傾げる私の頬をお坊っちゃまは優しく撫でて、ゆっくりと人目も気にせず、抱き寄せると首筋に噛みつき、血を啜り始める。
「……ひッ…んんッ……やあ!…」
お坊っちゃまは水着だから掴める布地は無く、彼の身体に抱きついて、甘く蕩けるような快感に震えながら、お坊っちゃまの肩越しに見える先───。
津村斗貴子を含めて顔を真っ赤にしている女の子と、武藤カズキを含めて鼻血を垂らす男の子に視線に気づき、お坊っちゃまから逃げようとすればするほど快感が募り、身体の力が抜けて無くなる。