みんなが見ているのに吸血を止めなかったお坊っちゃまの不埒な行為に我慢できず、ビンタしてしまったものの、あれはお坊っちゃまが悪いのだからと自分に言い聞かせて、ライフジャケットを身に付け、いつも下ろしている髪を一つに束ねて蛮竜を担ぐ。
「海坊主さん、いつでも行けます」
「相分かった」
海面を踏みつけて駆ける。
海坊主の彼に海面の水圧を調整してもらえば水の上を走ることは出来るのですが、やはり波の衝撃は足の裏を身体に響き、吐き気と気持ち悪さを感じながら沖合いを抜け、ワダツミの跳ねた場所まで辿り着く。
「来ますぞ、糸色様!」
海坊主のその言葉と同時に盛り上がる海面を蹴り、竜を彷彿とさせる姿に鱗と背鰭を持つ生き物───竜魚と呼ばれる生き物の背に掴まり、竜魚こ身体を突き破って現れたミミズの様な生き物を蛮竜で切り裂く。
アニサキスやタイノエのよう生き物にも見える妖怪を攻撃していた瞬間、いきなり竜魚が恐ろしげな悲鳴を上げながら飛び跳ね、私の身体は宙を舞う。
「くうッ……吹き飛びなさい!」
蛮竜の重さを利用して身体を捻り、力任せに巻き起こした熱波で焼き焦がし、妖怪を切り裂き、砕く。しかし、私の役目はお坊っちゃまにお仕えすることなのに、何故お婆様のように妖怪退治を行っているのでしょうか。
「ワダツミ様、御体を縛り上げ申す…!」
「ナイスです、海坊主さん」
海水のロープで竜魚の身体を締め上げた海坊主に感謝の言葉を伝えつつ、蛮竜の刀身を水平に構えて鱗に張り付く妖怪を根こそぎ切り落とす。
───ですが、私一人で対処するには数が多すぎて竜魚の身体を締め上げる海坊主の負担も大きくなる一方、こうなったら元凶を叩く以外に方法はありませんね。
「糸色賛、参ります!」
大きな悲鳴を上げる竜魚の背を登り、大きく開いた口の中に飛び込み、その身体の中に巣食っている妖怪の大元を倒しに向かう。
なんだか「うしおととら」みたいですね。
お婆様が戦っていた当時は予言の書やお役目を果たすために誰かが書き残したなんて言われていましたが、私の高祖母が明治時代に描いていた漫画だったわけですが、アレは本当に驚きましたね。
ズルズルと舌の上を滑り、迫り来る妖怪や物の怪、魚類型のホムンクルスを破壊していく。……ホムンクルス?後ろに振り返り、先ほど私が蛮竜で切り裂いたそれに視線を向ける。
やはりホムンクルスですね。
しかし、お坊っちゃまやマスター・バタフライ様の造ったホムンクルスではないため、おそらく私の知らない人の造ったホムンクルスですね。
「海坊主さん、私はこのまま胃の中に潜ります。もしものときは此方の携帯電話で、私のおじ様かお坊っちゃまにお電話をして頂けると助かります!」
そう言うと私は更に奥へと滑り落ちる。