【本編完結】黒死の蝶の唯一留まる花   作:SUN'S

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ワダツミの背に乗る 破

竜魚の胃の中は広く、釣り船や豪華客船の残骸、妖怪が濁った胃液を漂っている。腐敗臭の原因は竜魚の身体に開いている穴、おそらく妖怪の喰い破っていた場所が発生源でしょうね。

 

「人間、久しぶりの人間…!」

 

「喰ってやる!喰ってやるぞぉ!」

 

「……随分とお行儀の悪い方々ですね」

 

船酔いと腐敗臭で気持ち悪さと吐き気を感じつつ、蛮竜を振りかぶって妖怪の身体を切り裂き、手近まで迫った妖怪の顎に二重の極みを撃つ。

 

お婆様の時代はもっと苛烈に、それこそ一騎当千の大妖怪が闊歩し、暴れ狂っていたと聞いていたのに、ここにいるのは余り期待できないですね。

 

「槍だ、槍を奪え!」

 

「あら、蛮竜がほしいのですか?」

 

私の持つ蛮竜に向かってきた妖怪に向かって蛮竜を投げ渡した瞬間、大鉾に群がった妖怪が刀身の重さに耐えきらず、ひしゃげ、頭から砕けるように潰れる。

 

深々と甲板に突き刺さった蛮竜を引き抜き、血糊を振り払って肩に担ぎ、ゆっくりと視認できる妖怪の多さに思わず、私は溜め息を溢す。だって、このままではお坊っちゃまの夕食に遅れてしまう。

 

手早く片付ける必要がありますね。

 

それに竜魚が暴れる度に胃液も揺れ、船酔いの激しさに気分も悪くなる一方、おじ様かお坊っちゃまのどちらかに駆け付けて頂けると助かるのですが。

 

「多分、大元は奥ですね」

 

ゆっくりと胃液に飛び込み、ジュワジュワと胃液が私を消化するために泡立つ事も気にせず、一番後ろの奥に感じる気配を睨み付ける。

 

この残骸に隠れている可能性もありますけど。 

 

こういうときは一番後ろにいるものです。

 

何故なら「良いかい、賛。大体の悪いヤツは一番後ろの奥に居るものでね、そこまで真っ直ぐに何が来ようと駆け抜けるんだよ」と、そうお婆様は言っていました。

 

お爺様も「ばあさんみたいに賛は風の向くままに、行けると思えば何処までだってお前は翔んでいけるさ。そんときは本気(マジ)になりな」とお婆様と似たような事を言っていました。

 

「だから、本気(マジ)で突き抜けます!」

 

蛮竜の真っ直ぐに構えて駆け出し、船の残骸を切り裂いて突き進み、押し寄せる妖怪を切り裂き、だんだんと濃くなる妖気にお婆様の言葉は正解だったと笑みを浮かべてしまったその時、目の前にいた妖怪が弾け、鋭い矛先と赤い布が現れる。

 

「賛、大丈夫かぁーーーっ!!!」

 

「儂の家来を喰うヤツはどいつだぁ!!」

 

「……おじ様、とら様、タイミングが悪いです」

 

そこには長髪を揺らす五十代そこそこを迎えたおじ様……いえ、高祖母の描いた「うしおととら」の主人公と同姓同名、そして、その運命さえも同じだった蒼月潮と、彼の相棒たるとらが現れた。

 

 

 

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