お坊っちゃまと一緒に武藤カズキと津村斗貴子、キャプテン・ブラボー、そしてロクロウともう一人の戦士に気付かれる前に海豚海岸を去り、私達は千葉の温泉巡りを楽しみつつ、湯治を堪能している。
私の両足を傷付けたワダツミの胃酸は思ったよりも強かったらしく、傷を癒やすには核鉄の治癒能力だけでは足りず、こうして温泉の効能も頼っているのです。
まあ、お坊っちゃまと温泉巡りデートをしてみたかったという乙女心もありますが、まだ成人もしていないのに混浴に浸かるなんていう破廉恥な事は出来ません。
「ふう、ポカポカしますね」
「……湯上がりのメイドか」
「?」
「やはり温泉と言えばアレを買うか」
何かを考えるお坊っちゃまに小首を傾げつつ、自動販売機で売っている瓶タイプのコーヒー牛乳を購入するお坊っちゃまが、そのまま同じものを私も購入していただき、マッサージチェアに腰掛けるお坊っちゃまをお側にあった長椅子に座って眺める。
全身の筋肉を解すマッサージチェアの動きは完璧ですが、やはり機械ゆえに決まった場所をマッサージするだけですね。私の方が上手くマッサージ出来ます。
「……ロクロウさん、何か用ですか?」
「あら、バレてたの?」
浴衣姿の老婆の姿に変装していたロクロウに話し掛けると、驚いたような表情を見せ、すぐに変装のマスクを剥ぎ取って素顔になる。これが本物の素顔なのかは不明ですけど。
多用しているのだから素顔なのでしょう。
「ご用件は?」
「ご用件って程じゃないけど。私の身体を戻してくれそうな頭の良いパピヨンがいるし。ちょっとぐらい話しても良いかな?なんて思っただよん♪︎」
「つまり、ロクロウさんは私からお坊っちゃまを奪おうとする略奪者ということですね。───全身全霊の力を以て貴女の肉体を破壊します」
「私の趣味じゃないわよ、パピヨンは」
「その言葉はお坊っちゃまを侮辱した事になります。やはり殴って貴女の魂を破壊してしまう方が簡単に済みそうですね」
「……人の話は真面目に聞きなさい」
おふざけで話しているのは貴女では?と言い返せば悔しそうに私を見つめるロクロウ。この様な舌戦もメイドの嗜みでございます。
「私の身体はかなり変化が進んでいてね、過去の戦いで受けた傷が未だに残っているのよ」
「その欠けた影の事ですか?」
「ご明察。ハリオンナって妖怪に影を奪われてね、そのまま封印しちゃったのよ。取り返し損ねたから仕方ないけど……ムカつくのよね」
そう言って自分自身の影を見下ろすロクロウ。彼女の影は大きく左側が欠け、左腕や脇腹に至っては存在すらしていない。