マスター・バタフライ様の残して下さった秘密のセーフハウスに帰還したお坊っちゃまは糸色家の「知識」を狙うという錬金戦団の密偵を炙り出すために、わざと私に単独行動をお許しになった。
しかし、お坊っちゃまは雲より上空に浮かび、しっかりと私の事を見守って下さり、私の事を救助する準備は完璧だと仰っていましたけど。
やはり視線の多さは気になりますね。
「カレー、かき揚げ、ハンバーグ……」
ぽつり、ぽつり、と今夜の夕食の献立を思案し、商店街のお肉屋さんや八百屋さんを巡っていたそのとき、くすんだ金髪を後頭部に伸ばした独特の髪型の男性が電柱の中に消える光景を見てしまう。
ロクロウに続き、またしても忍者ですね。
マフラーをしている分、ロクロウより真っ当な忍者に見えるのは誤認の影響と考えるべきか。
あるいは、そういう風にロクロウに思わされていると思うべきですね。ウソはウソのままに受け止めるのは危険と彼女のおかげで気付けましたから。
「裏路地に来ましたよ、襲うならいつでも」
人気の少ない路地の奥に入り、行き交う通行人も意識しなければ見ることのない場所で、そう先程の男性に伝えると真上に微かに臭いと空気の流れを感じ、真上へと向かって蹴りの二重の極みを撃つ。
「よもや蹴撃でも撃てるか!?」
「調査不足。武術とは日々進歩するものです」
「チッ。致し方無し…」
壁や地面ではなく空間の中に消える忍者の男性の気配は忽然と消えてしまった。おそらく本隊か部隊に帰還し、私の情報を伝えるつもりなのでしょう。
尤も二重の極みは手足のみ限定とした極意ではありません。その気になれば私は開祖の行ったという肉体その物を震わす二重の極み────。
その奥技たる「総身」も扱えます。
「逃げたようだな」
「申し訳御座いません。取り逃がしました」
「なに気にする必要はない。が、錬金の戦士には色物しかいないのか?」
「……さあ?どうなのでしょうか」
ロクロウといい、先程の男性といい、何よりキャプテン・ブラボーという伊達や酔狂で変な格好をしているように見える方々は多いのは事実でございます。
「さて、拠点を変えるか」
そう言うとお坊っちゃまは私の身体を抱き上げ、武装錬金「ニアデスハピネス」を使って青空に向かって羽撃き、力強く煌びやかに火薬を炸裂させ、舞い上がる。
「しかし、忍者か」
「……くのいちにはなりませんよ?」
「何、機会はまだまだある。それまでにメイド服以外にも身に付ける気持ちを整えておけ」
チャイナ服は可愛いので許せますけど。くのいちとなったら、素足や素肌の見える面積が多くなりそうで、ふつうに恥ずかしいのですが?