「早坂さん、お見舞いに来ました」
「お帰りは彼方です、糸色先輩」
にこやかに出入り口を差し出す早坂桜花。
その理由はおそらく窓の隙間に黒色火薬を滑り込ませ、鮮やかに窓の施錠を解除したお坊っちゃまの手際の良さに驚き、少し動揺してしまったのでしょう。
「お見舞い品のメロンです」
「俺からは蝶・ステキな花束だ!」
私の差し出すバスケットの中に入った四つのメロンを受け取る際、落としそうになる早坂桜花の傍に置かれた机にバスケットを置き、お坊っちゃまの手渡す花束の真ん中に、彼女の視線は注がれる。
シリアルナンバー「V」の核鉄に、にこやかに微笑んだ彼女はメッセージカードに書かれたお坊っちゃま直筆の「錬金の戦士にもキナ臭い連中がいる、用心しておけ」という手紙を読み、僅かに彼女の表情に真剣さが現れ、直ぐにまた笑顔に変わる。
「……あら、本当に素敵な花束ですね」
ヴィクター・パワードの捜索とマスター・バタフライ様、そしてLXE創設者ドクトル・バタフライ様の所在を知るためには彼女の助力は必要不可欠でございます。
お坊っちゃまは不服そうですけど。
「見舞いは武藤達と弟だけか?」
「いえ、金城さんがたまに来るわ」
この病院は錬金の戦士と通じる場所だったと記憶しているのですが?と思いつつ、備え付けの果物ナイフを拝借し、メロンを食べやすい大きさにカットし、果肉と皮を切り分け、一口大に整える。
「相変わらず手際が良い」
「カットはメイドの嗜みでございます」
「フフフ、何だか武藤君みたいね」
「賛、此方に人が向かってくるぞ」
そう言うとお坊っちゃまは窓枠に足を掛け、私に向かって手を伸ばす。その手を握って、私はお姫様抱っこの姿で病院を飛び出し、楽しそうに笑っている早坂桜花に手を振ってあげます。
「お坊っちゃま、手の位置がいやらしいです」
「蝶・ベストなポジションだ。受け入れろ」
お姫様抱っこの体勢のまま私のお尻を掴んでいる左手の事を注意するものの。確かに、いきなり飛び立ってしまったためバランスを保つためにはお坊っちゃまが支えやすい位置を模索するのは当たり前だと納得します。
「……そこは触っちゃダメです」
「ムッ。主人に手を上げるとは無礼な」
「無礼だとどうなるのですか?」
「その時になったら教えてやろう」
そう言ってお坊っちゃまは楽しそうに笑う。
そんなお坊っちゃまに小首を傾げながら複数のビルの屋上に立って私達を監視する視線の多さに憂鬱な気分になり、いっそのことお坊っちゃまを連れて糸色本家に戻ってしまおうかと考えてしまいます。