ヴィクター・パワード。
二重の極みと蛮竜の攻撃を受けて尚も傷付ける事の出来なかった相手。キャプテン・ブラボーは二重の極みを大鉾を媒介として三連続の衝撃を撃てば、彼の武装錬金「シルバースキン」を砕き、弾く事は出来ます。
しかし、あのときの彼は手加減していた。
少なくとも私より強い方が三人もいる。津村斗貴子、キャプテン・ブラボー、そしてヴィクター・パワードの三人と戦って勝利するのは難しい。───ですが、負けるつもりは毛頭ありません。
「お坊っちゃま、今回は何処へ?」
「今はひいひいじいちゃんの研究資料に面白い単語があったからな、ソレを確かめるために神奈川県に向かっているところだ」
神奈川県に面白いものがある。お坊っちゃまのことだから武藤カズキと決着をつけるために必要不可欠とお考えの事でしょうが、私達を追跡している方々にも筒抜けになっていますよ?
「しかし、腹が減るな」
「でしたらお弁当にしましょうか」
「嗚呼、そうするか」
何処を飛んでいるのかは知らない私は河川の見える草原にブルーシートを敷き、バスケットに仕舞っていた五段重ねの重箱を取り出す。
定番のおかずを入れたお結びや卵焼き、唐揚げ、タコさんウィンナー、ミニハンバーグ、ブロッコリー、トマト、ゴボウとニンジンの和え物等もあります。
「どうぞ、お坊っちゃま」
「……お前、運動会のお母さんか?」
「?」
張り切って作ったのは事実ですが、変なところはなかったと思いながら、タコさんウィンナー用に保冷剤で包んでいたケチャップとマヨネーズ、マスタードを取り出してお坊っちゃまに紙皿を差し出す。
ぐぎゅるるるるるぅ……っ。
「「…………」」
ものすごく大きなお腹の虫が聴こえた。
錬金の戦士は休まずに、ずっと監視を続けているので交代制かと思いましたけど。まさか本当に休まずに監視を続けているのでしょうか。
しかし、気配はするものの。臭いや空気の流れに変化はなく、本当に隠れているのかも怪しい状況に小首を傾げながらお坊っちゃまの隣に座る。
「賛、あーんしてくれ」
「……あ、あーん」
唐揚げを割り箸で掴んでお坊っちゃまの口に運ぶと一口で唐揚げを頬張り、モグモグと咀嚼する度、草原には不釣り合いな藪がガサガサと震える。
「賛、次はおにぎりだ」
「はい。あーん、です」
「…ムッ。焼き明太子か、これもいいな」
「フフ、ありがとうございます。お坊っちゃま」
シクシクと涙を流す声が聴こえる。
お坊っちゃまは悪戯を思い付いた子供のように笑い、次々とお弁当のおかずを指定し、私が自分で食べるものを選べば、今度はお坊っちゃまが「あーん」をしてくれ、余りの嬉しさと見られている気恥ずかしさに頬を朱に染めてしまいます。