世界各地で起こる謎の無気力化と人間を含めた動植物の衰弱状態の報道を横浜の中華街の喧々囂々とした人混みの中で聴きつつ、モグモグと餡まんを食べる。
あのまま神奈川県に行くはずでは?
そう疑問を抱くものの、お坊っちゃまと私達のところまで情報を渡しに遠路遙々訪ねてくれた早坂桜花の武装錬金「エンゼル御前」を片手で抱き締めながら胸ポケットに収まった津村斗貴子にも餡まんの一欠片を差し出す。
こうなってしまった理由を語れば半日は使ってしまう事でしょう。手短にまとめると武藤カズキはヴィクター・パワードと酷似した蛍火色の髪、赤銅の肌、エネルギードレインを行える状態に変容したのです。
その際、合同任務を行っていた火渡部隊と交戦、津村斗貴子は身長を縮める武装錬金を受け、現在の可愛らしい姿に、武藤カズキともう一人の仲間はロクロウの手で難を逃れたそうです。
「津村さん、衣服に違和感はありますか?」
「いや、特には無い。だが、よく私の着ていた制服を細部まで覚えているな」
「裁縫と暗記はメイドの嗜みでございます」
「ツムリンはチャイナでも良くねぇ?」
「カチ割るぞ肉まんが!!」
私の腕の中で言い争う二人からお坊っちゃまに視線を戻す。静かな怒り、それよりも大きな悲しみを抱くお坊っちゃまの背中はホムンクルスと成って以降、初めて見るあの頃のお坊っちゃまにそっくりだった。
「賛、武藤の電話番号は知っているか」
「まひろさんに聞いています」
「なら電話を掛けろ。俺はヤツに文句を言うッ」
そう言うと津村斗貴子も反応し、エンゼル御前の頭部に飛び乗って電話の傍に寄っていく。私のお坊っちゃまに、あんなに近付いているのに怒らない。
「浮気ですか、お坊っちゃま?」
ピッタリとお坊っちゃまの背中に張り付き、両手の指の第二関節を脇腹に押し当てる。二重の極みを同時に撃てば衝撃は相殺し合う。ですが、僅かに衝撃の速さを変えれば体内を二つの衝撃はぶつかり合って駆け抜ける。
「……賛、俺にはお前だけだ……」
「お、お坊っちゃま……♪︎」
「出汁に使われたなツムリン」
「いや、アイツらは素でやっている」
津村斗貴子の言葉に小首を傾げて、お坊っちゃまを見上げる。お坊っちゃまを愛しているのは事実ですが、津村斗貴子と浮気しそうに思えたのも事実です。
浮気は許しません。
「イトリン、ほの暗いぜぇ」
「たまにこうなるのが良いんじゃないか」
「パピヨン、歪んでいるな」
「お坊っちゃまは姿勢は良いですよ?」
「……いや、そういう話じゃない」
では、どういう話なのでしょうか?