十文字槍の穂先を破壊する事、十一度目を越えたところでお坊っちゃまの動きが鈍り始め、手助けをしたくてもお坊っちゃまの成すことを妨げるのはよくないです。
「砕けろ、ホムンクルス!!」
「砕けるのは貴様だ!」
片手を突き出して穂先の近くを破壊したお坊っちゃまはニアデスハピネスの爆発と発光の効果を強め、爆煙の幕を張ったかと思った次の瞬間、私の身体を抱き寄せ、津村斗貴子とエンゼル御前様の二人を置いて駆け出す。
ニアデスハピネスの火薬の威力を高めたため脇腹が焼失し、僅かに無くなってしまっている。でも、その様な状態でもまだ闘志の醒めないお坊っちゃまの心の強さに私は歓喜の興奮を覚える。
お坊っちゃまと、戦ってみたい。
「…ゴブッ?!…チッ、使いすぎたか……」
「お坊っちゃまッ……!」
しかし、その考えは直ぐにお坊っちゃまの吐血する姿で霧散し、私はハンカチで彼の口許を拭っていたとき、戦部の放つ気配に気付き、お坊っちゃまを抱き締めて呼吸する音、動く音を最小限に留める。
「……随分と大胆だな……」
「胸の中で喋らないで下さい。擽ったいです」
そう言って私の胸に顔を当てて、心臓の音を聴くお坊っちゃまに今だけは意識を向けることなく、全裸で倉庫街を徘徊する戦部に集中する。
さっさと服を着てほしいのですが?仮にも女の子が三人いるのに。そう文句を言いたくなる気持ちを押えて、夕焼けは完全に沈み、月明かりで相手を視認するのは少し難しい状況の打開策を思案していく。
「賛、ヤツを追うぞ」
「ですが、まだ回復を終えていません」
「心配するな。勝ち筋は見えている」
ニヤリと自信に満ち溢れた笑みを浮かべるお坊っちゃまの笑顔に「流石です、お坊っちゃま」と私は感心し、戦部の向かった倉庫へと移動する。
ちょうど津村斗貴子達も居るのが見えて二人の無事に安堵の息を吐く。───が、戦部の足元に散乱するホムンクルスの残骸と彼の語る持論に困惑してしまう。
アレは強さを高めるためではありますが、倒した敵を血肉と代えて共に生きる意味もあるはずでは?と小首を傾げつつ、ホムンクルスの残骸を拾って齧り付いたお坊っちゃまを思わず二度見してしまった。
「フーン。こんなので戦う意志を昂らせないと満足に戦えないのか」
「パピヨン!糸色!?」
「煽るなってばパッピー!?」
「時間稼ぎは済んだか?」
「賛、お前の力を借りるぞ」
「はい。お坊っちゃま」
ゆっくりと振り返った戦部を無視して、お坊っちゃまは私の肩に手を置き、私の襟元のボタンを千切るように外し、露出した首筋に噛みつく。
「…んッ…ふあっ…!…」
「如何に敵の血肉で自分を鼓舞しようと構わないが、こうして惚れた女の声一つ、血の一滴、この温もりがあれば幾らでも男は昂るものだ!」
そう言うと私の首筋から牙を抜いたお坊っちゃまは百匹を越える
私は蛮竜を呼び寄せ、刀身を盾にする。
横浜の繁華街から離れた倉庫街の一部は強大なお坊っちゃまの武装錬金によって完全に焼失した。エンゼル御前様と津村斗貴子は緊急脱出していると良いのですが、ふたりは大丈夫でしょうか。