エンゼル御前様に核鉄を翳して、津村斗貴子を庇ったときに受けたダメージを修復しながら戦局の変わり目を眺める。やはり錬金の戦士といえど本家の御庭番衆に勝つ程の強さは無いようですね。
「賛、喉が渇いた」
「コーヒーなら水筒にございます」
「……まあ、今日は良しとしよう」
どこか不服そうなお坊っちゃまに小首を傾げつつ、マグカップとして使える水筒の蓋をお渡ししていたそのとき、般若の身に付けた仮面の閉口していた口が開き、鋭い牙が伸び、額に二本の角が生え、髪が白髪に染まる。
「能力は、やはり能の段階と同じだな」
「既に怒っていたんですね。般若が真蛇になってしまえば単純な破壊力と肉体の速度は私の視覚で追うことは不可能になります」
「……御前、知っているか?」
「桜花の記憶に能なんてねえぜ」
私の後ろで話す津村斗貴子とエンゼル御前様にも予備のマグカップを差し出してコーヒーを手渡してあげる。お坊っちゃまや私と違って直ぐに手助けに向かうと思いましたけど。
意外と津村斗貴子も冷静です。
「斗貴子さん、声援ちょうだい!」
「先輩、自分も声援が欲しいです!」
「お前も時と場合を考えろ!」
…………そうじゃないかもですね。
「お坊っちゃま、決着が付きそうです」
「そうか。なら俺達は行くとしよう」
「畏まりました」
武藤カズキに怪我を負わせたという炎を操る錬金の戦士に会えないのは残念ですけど。くるりと身体の向きを変えた瞬間、強烈な気配を感じる。
忘れるわけがない。
「ヴィクター…!」
「落ち着け」
ポンと頭をお坊っちゃまの手を置かれ、私は今すぐ飛び出していきたい気持ちが収まり、エンゼル御前様を抱き締めてお坊っちゃまの隣を歩く。
「イトリン、オレを抱っこするのやめね?」
「えっ、嫌なんですか?」
「賛の抱擁に不服でもあるのか?」
「めんどくせぇなあもうバカップルめ!?」
そう言ってエンゼル御前様は羽を動かして飛び立とうとするけれど。怪我を負っているため、フラフラしているので優しく抱き締めてあげる。
完全に回復するまで我慢して下さい。
それに先程感じたヴィクター・パワードのエネルギードレインに似た感覚は本物でした。やはり彼は日本に帰ってきているのでしょう。
そして、マスター・バタフライ様もいる。
「賛、調べる前に休むぞ」
「やはり怪我が痛むのですね」
「ああ、そうだ。だからあのホテルに」
「先を急ぎましょう。破廉恥お坊っちゃま」
……私も学習するんです。
そういうのは大人になって、しっかりと結婚したからするものです。まあ、あのときに経験してしまっているという事実は覆りませんけど。