「三人目のヴィクターがいるのですか?」
「いや、正確には存在していた。大戦の際に人間を裏切った挙げ句、ニュートンアップル女学院に保管していた黒い核鉄IIを奪取してしまった」
「その大戦っていうのは何なんだ」
「『うしおととら』は知っているね」
中村剛太の言葉にドクトル・バタフライは応える前に高祖母の書き記した漫画のタイトルを呟いた瞬間、避難壕の中の空気が張り詰める。
私達は事前に聞いているので知らないわけではありませんが、当事者に聞くのは二度目になりますね。一度目は祖父母と自伝とも言えるものですけど。
「あれ、漫画じゃねえのか」
「あっ、潮おじさんってそうなんだ!?」
「奇は気付くのが遅いですよ。とら様も見えていたじゃないですか」
「てっきりあれは着ぐるみだと……」
そう小声で私に呟く奇の事を慰めつつ、私のお尻を触ろうとするお坊っちゃまの手をペチンと叩く。真面目な話をしているのですから破廉恥なのはダメです。
「白面の者と戦ったとき、人間を裏切った彼は黒い核鉄を取り込み、現在は日本海の底で海洋生物のエネルギーを吸収し、五十数年の眠りから目覚めようとしている。我が息子と同胞は既に其処で待機している」
「蝶野のおじいちゃん、質問していい?」
「構わないよ、武藤カズキ君」
「オレとヴィクターが必要になるってのは?」
「その理由は黒い核鉄の奪取もそうだが人間のまま妖怪に変わった者に対抗するために二人のエネルギードレインを一点に集め、彼のパワーを吸い取る必要があるからだ。況してや彼は白面の者に取り入った」
僅かに言葉に怒気が混ざり始める。
「おじいちゃん、俺も質問だ」
「武藤を治す手段は?」
「この白い核鉄だ。ただ、ヴィクターの変化を戻すためには彼の持つ黒い核鉄でなければ効果はない。この白い核鉄で人間に戻れる段階にいるのは武藤カズキだけと言っておこう」
津村斗貴子と中村剛太は差し出された白い核鉄に戸惑う武藤カズキの背中を力強く押し、彼はゆっくりと白い核鉄を受け取った彼は「ありがとう。でも、戻るときはヴィクターと一緒で良い」と答えた。
その答えにお坊っちゃまは笑みを浮かべ、私達の入ってきた避難壕の出入り口に通じる道に向かい、私はお坊っちゃまに着いて歩き出す。
「武藤、お前の好きにしろ。金髪娘、俺と賛は外に出てやることが出来た。さっさと開けろ」
「命令しないでくれる?」
「お坊っちゃま、やることとは?」
「少し試したいことがある」
おそらく白い核鉄の精製ですね。
武藤カズキの性格を考えるに自分ではなくドクトル・バタフライの話に出てきた「彼」にその白い核鉄を使うつもりなのでしょう。
お坊っちゃまのときもそうですが、やっぱり武藤カズキは優しくて強い心の持ち主です。ああいう人こそ糸色本家の当主に相応しいと私は思う。