あと数日後に決戦に赴く。
その事実と刻一刻と迫るヴィクター化の不安を振り払うように武藤カズキは津村斗貴子とデートしている様子をお坊っちゃまと眺める。
再従兄弟の真っ直ぐな成長は素直に嬉しいですけど。やはり子供の頃に親戚の男の子達と一緒に遊び呆けるのではなく、二重の極みを体得できるように修行していれば良かったのにと思ってしまいます。
昔は槍術と剣術は一緒に習っていたけど。武藤カズキは完全に忘れてしまっている。いえ、使い方は覚えているのに、記憶の方は残っていない感じですね。
「賛、武藤にヴィクターの気配は感じるか」
「先日の夏祭りのときより微弱です。ただ、あくまで弱まっているだけで、彼の奧に巣食う気配は日に日に強まっています」
「白い核鉄の精製を早急に進める必要があるな。おじいちゃん達も精製に取り掛かっているが、下手に動けば三人のヴィクターと戦うことになるな」
「三人のヴィクターと、ですか」
ほんの少しだけ期待してしまった。
ヴィクター・パワードとの戦いは、おそらく戦士としての私の生涯に於いて想像を絶する多幸感を与えてくれた一戦でした。きっとアレを越える戦いは、津村斗貴子と決着以外にあり得ないでしょう。
「……賛、今興奮してなかったか?」
「してませんよ?」
「ムッ。そうか、俺の勘違いか」
「お坊っちゃま、武藤君と津村さんのデートを見るばかりでは進みませんよ。ほら、私と一緒にあの二人を追い掛けましょう?」
そう言ってお坊っちゃまに片手を差し出せば、大胆不敵な笑みを浮かべたお坊っちゃまは武装錬金「ニアデスハピネス」を発動し、巨大な蝶の背中に乗って二人の事を追い掛けるために私を抱き寄せた。
「掴まっておけ、ヤツを追い越す」
「フフ、それでこそお坊っちゃまです」
ニアデスハピネスの一部が弾ける音を聞きつつ、銀成市の市民が「パピヨン!パピヨン!」とお坊っちゃまを称える声に心地好さを感じてしまう。
誰も彼もがお坊っちゃまの生まれ変わった「蝶人」パピヨンの名前を呼ぶ度、みんながお坊っちゃまを覚えているんだと思うだけで幸せな気持ちになる。
「試しに呼んでみるか?」
「いいえ、私は攻爵お坊っちゃまの名前を最後を迎えるときまで呼び続けます。愛していますよ、私だけの大好きなあなた様」
「知っているさ。昔からな!」
そう言うとお坊っちゃまは更に空高く羽撃き、武藤カズキと津村斗貴子も私達の事を見上げ、笑顔と少し呆れながらもしっかりと見つめてくれる。