そこにいるのは人間に見えない男の人でした。
「久しぶりだね。奈落」
「…ドク、トルゥ…!!」
バサリと私達の目の前に現れたドクトル・バタフライに怨嗟の声を出す「彼」の名前を呼び、ゆっくりと近付いていく瞬間を私達は見守っている。
「もう終わりだ。君のヴィクター化は完全に無効化している、黒い核鉄を摘出すれば君は元に戻る。さあ、私達と共に帰ろう」
「帰る?帰るだと!?お前はッ……お前は、この私の家族を侮辱し、私を怪物と罵った挙げ句の果て、全ての責任を押し付けて自分達の歩いた道こそ正しいと宣う奴らを許してやれというのか!?」
またしても錬金戦団の失態ですかと巨大なロボットに搭乗する彼らに視線を向けつつ、津村斗貴子も中村剛太も自分達の所属する組織に疑問を抱き、何処か不安げに奈落と呼ばれた彼を見つめる。
「その話し合いをするために私は友達の君を止めるために、親友の身体に巣食う意思を持つ黒い核鉄を摘出するためにやって来たんだ」
「奈落、私と君は同じだ。あの時はモニター越しに見ることしか出来なかった。───だが、今は君を止めるために此処に居るんだ」
ドクトル・バタフライとヴィクター・パワードの差し出す手に僅かに奈落の動きが鈍り、その差し伸べられた手を取ろうとした次の瞬間、突如、彼の左胸に刻まれた六角形の紋章が浮かび上がり、肌が赤銅に染まり、彼の顔が怒りに支配される。
「さっき打ち込んだのに!?」
「来るぞ、カズキ!」
「私の邪魔をするなッ!!」
奈落の近くを飛んでいた武藤カズキと津村斗貴子に突き出された右腕は数多の生き物に変貌し、二人の身体に巻きつき、海面に振り落とされる。
成る程、だんだんと奈落という人の正体に近付いて来ましたね。と、言うよりも彼自身はお坊っちゃまやマスター・バタフライ様達のように人間を越えたホムンクルスとは全く違う生物です。
「お坊っちゃま、もう一度仕掛けます」
「止めておけ。あの巨大な身体を形成していた海洋生物の残骸ではなく、彼処にいるのは彼奴自身の肉体だ。動きはスピーディーに、あの触手腕を自在に避ける術をお前は持っていないだろう」
その指摘は事実です。
でも、あんなに強い人を相手に我慢するなんて無理です。そう訴えるようにお坊っちゃまを見上げると巨大なニアデスハピネスを作り出し、そちらに私を降ろすようにしながら乗せる。
「次は俺も仕掛ける。遅れるなよ」
「畏まりました。お坊っちゃま!」
二羽の大きな黒死の蝶が海上を駆け抜け、ドクトル・バタフライ達の間を抜けて奈落と呼ばれた彼に突撃し、私の振るう蛮竜に彼の視線が集束し、無数の触手腕が一斉に襲い掛かってきます。
「俺のメイドに触れるな!」
刹那、お坊っちゃまの起爆したニアデスハピネスの爆風を受けながら跳び上がり、私は身体を横に回転させながら奈落の身体を切り裂いた瞬間、彼の右手のひらに黒い核鉄IIがあることに、気が付いてしまった。
「────武装錬金!!」