お坊っちゃまの操作する黒色火薬の蝶は火薬の炸裂を利用して素早い方向転換を行って可視化してしまう程に凝縮されたカマイタチの突風を回避していく。
「チッ。あの扇子が邪魔だな」
「あの風さえ抜ければ勝機はあるのですが」
私とお坊っちゃまの前に立つ巨大な羽根に乗った着物姿の女性を見つめる。生気を失った顔ながらも美しく凛々しさを纏った佇まい、あの風を操る扇子の動きに私は見覚えがあるように感じてしまう。
一体、どこで見たことがあるのだろう。
ドクンッ…!
ふと右手に握り締めていた蛮竜が一際大きく鼓動した瞬間、ほんの一瞬だけ脳裏に蛮竜を振るう誰かと目の前に立つ彼女が戦っている光景が溢れ出す。
「かぐら、神楽…そう自由な風の如き妖怪…」
漸く思い出した。
いいえ、あの妖怪に関わる記憶は糸色本家の蔵書に載っていたものですね。奈落の第二の分身、そして、彼処に立つ彼は神楽の弟だった妖怪だ。
「武藤君と津村さん、此処はお任せします」
「何を言っている!?」
「お坊っちゃま、またお先に参ります」
「気を付けろよ。賛」
「はい!」
ニアデスハピネスの羽根を借りて跳び上がり、一瞬にして数百の旋風や竜巻を起こす神楽の風を蛮竜の刀身で受け止め、彼女の纏う妖気の渦を嗅ぎ分ける。
「風の傷────ッ!!!」
頭の中に浮かんだ技を叫んだ瞬間、私の振るった蛮竜から熱風とは違う。強烈にして鮮烈な凄まじい衝撃波が弾き出され、彼女の風を破壊していき、あと僅かなところで風の傷は掻き消される。
やはり初めての技は上手く撃てませんね。
「風刃の舞…!」
「おや、喋る事も出来るんですね」
三日月状のカマイタチを蛮竜で受け止め、その衝撃を利用して彼女の頭上に舞い上がり、振り下ろしの一撃を繰り出す。しかし、扇子によって蛮竜は弾き返され、私はまた上に飛び上がる。
「…くそ、いきなり呼び出されたと思ったら見慣れた大鉾を振るうチビがいるなんた頭が混乱するね。まだアイツはあたし達にすがり付いているのかい」
「……まさか御本人の記憶があるのですか?」
「あたしはあたしさ。もう誰にも縛られない風……そのつもりだだったんだけどね。あたしや神無がアイツを縛りつける事になるなんて」
そう言うと彼女は辛そうに奈落を見つめたその時、彼の背中を守るように黒色の肌と角、牙の生えた鬼がヴィクター・パワードの大戦斧を受け止める。
「チッ、悟心鬼も出しやがったね。あたし達を忘れてしまえば良いのに、奈落の真似事なんざしてまですがり付かなくて良いものを」
「……きっと、家族だから忘れたくないんです」
彼の言葉はどれもが悲しさと寂しさを秘めていて、ただ家族を貶して貶め、侮辱された事を怒り続けているようにも見える。