「もっと足腰に力を込めなさいな!」
「体格をッ、考えて下さいませ!!」
石突の月牙を穂先の根本に突き立て、私の蛮竜を地面に叩き落としたお婆様は徒手空拳の戦闘に移行し、糸色流古武術の基礎的な動きで怒涛の拳打を私に打って、私の軸足に踵を引っ掛け、重心の崩れて倒れる私の胴体に二重の極みを撃ち込んできた。
咄嗟に反対側のお腹に拳を当て、二重の極みを放って衝撃を相殺しようとした瞬間、全身を凄まじい衝撃が突き抜け、私の二重の極みが消し飛んだ。
「グッ、がはあっ!?」
「極み外しは使える様で安心した。でも、その練度の低さを見るに自分の身体能力に頼って来たわね。悪いとは言わないけど、良いとも言えないわね」
「ゴフッ…うるさいですよ、お婆様」
「なら黙らせてみなさい」
こ、子供の頃に修行の最中に受けた二重の極みよりも重く身体の芯を正確無比に撃つ拳打の破壊力、流石は糸色本家の認める歴代最強最高まで武を極めた人です。
───ですが、負けるつもりはありません。
ゆっくりと左手を突き出して、右手を後ろに引いて如何にも突撃するという構えを取り、お婆様を見据える。私独自の構えなら、まだまだ戦えます。
「参ります!」
「OK。迎え撃つ!」
私が突進と右の正拳を繰り出すと同時に裏拳を手首に打ち付けて重心の崩しを仕掛けてきたお婆様に顔を掴み、鉄製の地面に叩きつけ、そのまま勢いを殺さずに倒立し、振り戻しと反動を乗せて彼女の胴体に両膝を揃えて叩き落とす。
二重の極みを受ける前に飛び退き、押さえつけられていた蛮竜に手のひらを突き出して引き寄せ、刀身を下段に構えて何事も無かったように立ち上がるお婆様の身体を静かに見据える。
「意外とやるわねえ、お姉さんビックリだわ」
「その頑丈さは異常すぎます」
「生憎と身体を作り替えている訳じゃないわよ?ただ単純に攻撃の瞬間に受ける場所をずらして、衝撃を相殺しているだけよ」
「二重の極みの奥技『総身』ですか?」
「直ぐに答えを言えるって事は糸色本家の後継者候補の一人。それも一番強い子なのは間違いないんでしょうけど、アッチのキラキラした男の子も気になるわね」
攻撃を与える瞬間、僅かに接触した部位に痺れを感じる理由も恐らく高速振動するお婆様の衝撃を受け、攻撃の破壊力を失っているせいでしょう。
そう思考する私を余所にお婆様はサンライトハートのエネルギー放出を推進力に変えて飛行する武藤カズキに笑みを浮かべている。
「彼方は再従兄弟の武藤カズキ君です」
「再従兄弟って事は弟か妹の孫か。アッチと勝負するのも楽しそうだけど。今は私の可愛い孫娘と勝負する方に集中しないとね。蛮竜、来なさい!」
その言葉に答えるようにお婆様の蛮竜は彼女の手の中に飛んでいき、その刀身に変わった気配を、今まで感じた事の無い匂いを纏わせる。
「霊槍『蛮竜』の真価は熱風だけじゃない。とある妖怪の刀鍛冶が、この大鉾を鍛え直す際に最高に面白い仕掛けを施している」
ドクンッ…!
何か恐ろしいものの気配を感じる。
これは、受けてはいけないものだ。
「雷竜閃ッ!!!」
「いっ、きゃあぁあぁあっ!!?」
刹那、蛮竜の刀身が稲妻を纏い、地面を這う雷撃と天から降り注ぐ電撃が私の身体を突き抜け、全身に二重の極みを上回る衝撃と痛みが刹那の瞬間に叩き込まれ、砕けた地面を転がりながら私は吹き飛ばされる。
転がりながら蛮竜を地面に突き立て、お婆様を睨み付けながら立ち上がり、雷撃で焼き焦げたメイド服を脱ぎ捨て、新しいメイド服に着替える。
「……着替える意味あるの?」
「メイドは常に美しく在れでございます」
「まあ、咄嗟に蛮竜を盾にするなんてバトルの才能は私より上かも知れないわね。───けれど。蛮竜本来の強さを引き出せていない貴女に私を倒すことが本当に出来るのかしら?」
「勝ちます。メイドは有言実行です」
お坊っちゃまとの未来のために、私はお坊っちゃまに振り掛かる火の粉の全てを払い除けます。