「奈落の姿が人間に近づいたか」
「お坊っちゃま、格好付けるのは良いですけど。私の偽者を押し倒して首筋に噛みついているのはどういうことですか?私以外に噛みつくのは浮気だと思うのですが、まさか偽物の胸が少し大きいから鞍替えするつもりですか?そんなことは絶対に許しませんよ?」
「……フ、醜い嫉妬でッ」
「まあ、踏み潰しちゃいました♪︎」
にっこりとお坊っちゃまに微笑んで肯定を求めると冷や汗を流して頷きます。全く、いくら私の偽者だからといっても襲い掛かってきた相手を押し倒すのは、とても悪いことですよ。
既に他の方々も自分自身や友人、仲間と姿を真似た相手と戦っています。ヴィクター・パワードと武藤カズキを真似ることは流石に不可能のようですけど。
あの能力の源を倒さない限り、無尽蔵に私達の偽物は現れることになります。
「賛、俺の偽物はどうしたんだ」
「即座に斬りました。お坊っちゃまを真似るなど許し難き悪行を見逃すほど私は優しくありません。第一、自分の愛する人を間違えると思いますか?」
「それもそうだな。……しかし、偽物とはいえ二人の賛を手元に置くというのも中々に良いかも知れないと思ったんだがな」
「お坊っちゃま、浮気は極刑ですよ?」
私の言葉を口を噤むお坊っちゃま。
破廉恥な事を考えるのは男の子だから仕方無いのかもしれませんけど。私自身の偽物に好きな人を奪われるのだけは絶対にイヤです。
そう切実に思いながら蛍火が線を描く空を見上げ、触手を切り離して蜘蛛のような八本の足が生えた身体を動かし、ヴィクター・パワードと武藤カズキのエネルギードレインを直に受ける奈落が疲弊していく姿にもうすぐ戦いが終わると誰もが確信を持つ。
「ドクトル!マスター!」
「離せッ、この馬鹿力が!!!」
ぐるりと奈落の背後に回り込んだヴィクター・パワードが彼の身体に抱きつき、彼の身体に刻まれた黒い核鉄の紋章をさらけ出すように海老反りに締め上げる。
「させるかアァーーーーッ!!!」
しかし、身動きの取れないヴィクター・パワードに伸びた触手と蜘蛛の足を突き立てようとした奈落の動きが再び止まる。武藤カズキのサンライトハートが触手を猛り迸るエネルギーで掻き消したのだ。
流石はお坊っちゃまの好敵手ですね。
「息子よ、タイミングだ」
「ノープロブレムだ。父よ!」
ドクトル・バタフライとマスター・バタフライ様のふたりの極蝶が大羽を振るわせ、銀と金のチャフが奈落の身体に突き刺さると同時に黒い核鉄が弾き出された瞬間、どす黒いオーラが彼らを吹き飛ばした。
「遂に黒い核鉄の意志が現れるか」
そう言うとお坊っちゃまは私を抱き抱えて舞い上がり、武藤カズキ達と合流する。髪の色素が抜け落ちて生気の殆んどを吸われた様に痩せこけた奈落を抱き締めるヴィクター・パワードが黒い核鉄を睨み付ける。
いよいよ、最終決戦ということになりますね。