「ハアッ…ハアッ…!…戻れ、私の核鉄」
血濡れた腕を差し出す奈落の視線の先に浮遊する黒い核鉄はどす黒いオーラを纏い、人の形に変わり始めていき、自動的に武装錬金を発動し、空洞になった奈落の心臓を再び貫いた。
「奈落ッ!?」
「おのれ!!」
ヴィクター・パワードが奈落の身体を抱き締める最中、人の形に作り終える前に倒さんと黒い核鉄にチャフの剣を振るうドクトル・バタフライの身体が瘴気を纏う金剛石の槍に突かれ、吹き飛ばされる。
「五百年の時を経て取り戻したぞ。我の身体を」
どす黒いオーラを振り払って現れたのは奈落に似た顔だけど、身の毛も弥立つ恐ろしさを戦わずに理解してしまう男の人だった。
「ゴフッ…やはり生きていたか。奈落」
「ドクトル・バタフライ様、待って下さい。その奈落というのはヴィクター様の抱き抱えている方の名前ではないのですか?」
「彼もまた奈落なのは本当だ。───だが、彼の記憶と身体に埋め込まれていた黒い核鉄を依代とし、今まさに私達の目の前に立つ彼こそ本当の奈落だ」
「儂の切り捨てた肉塊が形を成して生まれただけの妖怪が儂の名を名乗り、生きている姿を見るのは存外不愉快だったが最後は役に立った」
そう言葉を紡ぎ、手の感覚を確かめる奈落。
「そして、忌まわしき妖器物にもな」
「え?きゃあっ!?」
ふと憎悪と悪意の満ちた眼差しが私に向き、不安と焦りで蛮竜を胸元に持ち上げた瞬間、凄まじい衝撃と共にお坊っちゃまの武装錬金「ニアデスハピネス」の羽の上から弾き落とされた。
見えなかった。
見えなかった…!
あれだけ注視していたのに奈落と名乗った黒い核鉄の攻撃を私は見ることが出来なかった。すごい、ただの核鉄では絶対に有り得ない事です!!
「賛、手を伸ばせ!!」
「ッ、はい!」
思考の海に呑み込まれ掛けていた私は今回で四度目になるお坊っちゃまの救出を受けて、海面に叩きつけられることは免れ、闘争本能に支配されそうになっていた意識を落ち着かせるためにお坊っちゃまを抱き締めます。
「みんな、此処は退くべきだ。既に奈落と戦って疲弊した錬金戦団の戦士達も続け様に戦えるほど体力は残っていない。それに…」
「エネルギードレインが心配か武藤?」
「……ああ、このままオレとヴィクターが奈落と戦い続ければ今度こそ生態系を壊し兼ねない。なにより、みんなを危険に晒すことになる」
武藤カズキの言葉は津村斗貴子達の事を心配しての発言なのでしょう。ヴィクター・パワードとドクトル・バタフライは顔を見合わせ、黒い核鉄を依代とした奈落に背中を向け、撤退を受け入れた。