「これで完成♪︎パピ!ヨン!!」
自分の下着の中を漁り始めたお坊っちゃまから視線を逸らす。そ、そういうのは私の見えないところでしていただけると助かるのですが、そもそも下着に仮面を仕舞わないで欲しいのです。
「う、うわあぁぁぁあっ!!?」
「変態だ!」
突然の出来事に焦りと恐怖を感じ、拳銃を取り出す黒服達に突き飛ばされ、地面に倒れた瞬間、幾つもほ乾いた炸裂音が室内に響き、金属の転がる音が聴こえる。
「ちょっと痛いけど。カ・イ・カン♥」
にっこりと
それに、あの銃弾の雨からお坊っちゃまは私を守ってくれたのだ。鋭利に伸びた爪を振るい、黒服を切り裂き、手のひらに出来た擬似的な口を使い、黒服を呑み込み、お坊っちゃまはベロリと舌なめずりをする。
「ごめん、斗貴子さん。でも、絶対に解毒剤は手に入れる!武装錬金……!!」
その掛け声に彼の核鉄は反応しなかった。
いや、反応してはいるのだろうが、鷲尾さんと戦った後に急いで蝶野本家まで走ってきたのだ。もう武装錬金を起動する体力は残っていない。
お坊っちゃまの爪を避ける事も出来ず、身体を裂かれた武藤カズキは床に向かって倒れ伏し、浅い今にも消えそうな呼吸を繰り返す。
「武藤、そこで自分の無力さに打ちひしがれていろ。……しかし、エネルギーを消費しやすい身体だな。賛、残りの連中は本家か?」
「はい。本日は次郎くんの大学入学式をお祝いする日でしたから」
「そう。じゃあ、俺達も行こうかな」
「はい、お供致します」
そこから始まったのは剪定だった。
次郎くんとそっくりな見た目をしている自分の見分けを付くものだけを助けるという遊びを始めたお坊っちゃま。しかし、誰も彼の名前を呼ばない。
悔しさと悲しさ、怒りに拳を握り締める。
発病する前は鬱陶しい程に纏わりついて、自分達の利益になると浅ましく恐ろしい程に彼を狙っていた癖に、本当に気持ち悪い。
「次郎様」「次郎さん」と聴こえる度、お坊っちゃまの手が人を喰らい、最後に辿り着いたのはお坊っちゃまと次郎くんの父親であり、蝶野家の現当主がパイプ煙草を吸う旦那様がいる。
「おお、次郎、素敵な格好だな!」
「(貴方も攻爵お坊っちゃまの名前を…!)」
「……そうか。
一切の躊躇もなく旦那様を補食したお坊っちゃまは少しだけ悲しそうに呟き、私は寄り添うことしか出来ない現実に歯痒さを感じる。
ゆっくりと歩き始めたお坊っちゃまの後ろを歩く。最後に向かう先は決まっている、武藤カズキのいるお坊っちゃまが超人に生まれ変わった倉だ。
五分と時間を掛けて歩くお坊っちゃまと共に倉の扉を開けると血溜まりの中に立つ武藤カズキがいた。まだ、あれだけの傷を受けて立ち上がるなんて……。
「ちゃんと打ちひしがれていたか?」
その言葉に答える余力も残っていない筈の武藤カズキの眼光に気圧される。蛙井と戦っていたときと同じだ。強い、強い心の意志が彼の身体を支えている。
「蝶野オォ!!」
「なんだァ!?」
武藤カズキの呼び掛けに応えながら駆け出そうとしたお坊っちゃまの動きが止まる。核鉄が、二つ。二本の突撃槍を構えた武藤カズキが────。
「決着を付けるぞ、蝶野ッ!!」
僅かに誰かと重なって見えた。
「ダブル・ランス。───だが、折角の武装錬金も今にも分解しそうになっているじゃないか。それで勝とうなんて思わず、吹き出しそうゴブッ!?」
「お坊っちゃま!?」
慌てて吐血するお坊っちゃまを支えるように抱き締め、超人になったはずのお坊っちゃまが吐血し、ゼエゼエと濁音の混じった呼吸を始めることに焦る。
『────今の嫌な音』
「蝶野が、血を吐いた」
『…カズキ、パピヨンの身体に章印はあるか?』
「そういえば何処にもない」
止めて、言わないで…!
『蝶野、いや、パピヨン!お前の変身は失敗だ。完成前の幼体を使ったことで不具合が生じ、お前は不治の病のまま不老不死の身体になったんだ!!』
……そんなの、聞きたくなかった……。
「……嗚呼、失敗しちゃった…でも、ほら…目の前に新しい命がある!……賛、鍵を寄越せ……」
「はい」
ネックレスとして身に付けていた解毒剤の鍵を外して、お坊っちゃまに差し出す。武藤カズキも私が持っているとは思っていなかったのか、困惑に顔が歪む。
「解毒剤は培養器背面のボックスの中、この鍵以外で無理に開ければ即座に
「蝶野オォーーーッ!!」
無理やり荷物を押し退け、瓦礫と破壊された倉の跡を進んでいく。お坊っちゃま、お坊っちゃまがいないと私は、寂しいんです。
「…ッ…お坊っちゃま……」
「…結局……ダメだったかァ………」
手足と下半身が破壊されたお坊っちゃまの近くに、ゆっくりと砂利や石、瓦礫の破片が残った地面に座り込んで彼の頭を太股に乗せる。
「私も直ぐに追います。待っててくれますか?」
「………フン、好きにしろ…」
「はい、好きにします」
「…最後に俺の名前を呼んでくれ……」
「攻爵さん、攻爵さん、私の大好きな人です」
そうっと彼の頬を撫でる。私に生きる意味をくださった、誰よりも何よりも愛しい貴方様、どうか安らかにお眠り下さいませ。
「…蝶のブローチ……そっか、それは俺が…」
「さようなら、お坊っちゃま」
ゆっくりと何かを思い出したお坊っちゃまの唇にキスをして、最後の瞬間を迎えようとした瞬間、何者かの気配を感じる。全身を隠す変な服の人。───けど、彼は何もせず、鍵を持っていくだけだった。
「やれやれ。騒々しいと思えば若人の死に際とはBad Timingだな。しかし、君達には数奇な縁を感じてしまうし。私が丁重に保護してあげよう」
「あなたは?」
白金の蝶の羽を纏う人影が月光を背負って現れた人に、そう問い掛けるも意識が、プツリとそこで完全に途切れてしまった。